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〈まるわかり! 法律で知る朝鮮 4〉共和国憲法の実質的具現①/李泰一

2023年10月27日 08:30 寄稿

育児法から見る朝鮮社会の実情

■はじめに

2022年2月、最高人民会議第14期第6回会議において、「朝鮮民主主義人民共和国育児法」が採択された。この法律は朝鮮労働党中央委員会第8期第3回総会(2021年6月)において提示された育児政策の法制化であり、また、1976年に制定された「子ども保育教養法」の付属法として育児事業を集中的に取り扱った法律でもある。

日本では朝鮮の核武力高度化について多く語られるが、育児法が制定されたことについて論じられることはあまりない。しかしながら朝鮮では事情が異なる。直近の今年6月に行われた党中央委第8期第8回総会における討議の重要テーマの一つが、育児政策の提示および育児法制定以降の執行実態の分析及び総括であったし、より注目すべき点は、朝鮮労働党が育児政策の具体的な実現を今年の貴重な成果として高らかにうたっている点である。

党中央委第8期第8回総会の総括報告は次のように指摘している。

「過去2年間、道、市、郡において育児用乳製品の生産量を増やし、製品生産設備を整えるため多くの努力が傾けられ、これらの生産を供給する体系と秩序が整然に樹立され、託児幼稚園年齢期のすべての子どもたちが一日も欠かすことなく正常的に乳製品を食べられるようになったのは、党中央委員会第8期期間においてわが人民たちの生活で起こった最も明確な変化の一つである」

小論では、まず、育児法制定の背景について概観したのち、本法の内容について解説を試みようと思う。

■育児法制定の背景

育児法制定の背景を考えるうえで重要なポイントは第一に、今の朝鮮がおかれている状況であろう。

周知の通り育児法の制定は社会にある程度の力が備わったときに可能といえる。日本においても、育児関連法が部門ごとに制定されはじめたのは、ある程度の経済的力が社会に蓄えられた以降であり、時代の変化とともにそれらは常に更新されている。2022年といえば、朝鮮においてはコロナ撲滅のため全人民が一丸となって闘った時期であった。

このような状況を鑑みた場合、育児法において国家の責任と義務として乳製品を滞ることなく配給することを規定した本法の意義は計り知れない。1990年代の苦難の行軍時代、子どもたちにだけは豆乳を飲ませなくてはならないとの配慮のもと、毎日欠かすことなく豆乳車を走らせていたあの頃、その光景を祖国で直接目撃している筆者にとって、今日、育児法を制定し見事に遵守している朝鮮の現状に感服せざるを得ない。まさに朝鮮の内的力の表れであろう。

毎日欠かさず乳製品を飲む子どもたち(労働新聞)

第二に、人民大衆第一主義を指導理念とする朝鮮式社会主義が優先的課題として取り組む事柄の一つが、育児事業であったという点である。党第8回大会(2021年1月)において、以民為天、一心団結、自力更生の三大理念を再び提唱し、人民大衆第一主義を政治理念として掲げた。新たな5カ年計画が打ち出される中で、育児政策の提示とその具現としての育児法の制定はひときわ注目を浴びた。まさに、朝鮮が誰のための国家であるのかをはっきりと示した事例となった。現存する子どもたちを明日の労働人口とだけしか捉えない他国とは異なり、人民大衆第一主義の範疇に未来の主人公である今の子どもたちまでをも含める後代観の現れがまさに育児政策や育児法なのだ。

■育児法の内容

では、育児法の内容を見てみよう。資料によると、本法の使命は、子ども栄養食品の生産と供給、児童養育条件保障における制度と秩序を厳格に打ち立て、国家の育児政策を徹底的に貫徹することに資するとされており、全体として4章61条で構成されている。

第1章「育児法の基本」(全4カ条)においては、育児事業の基本原則、育児事業部門に対する指導幇助強化原則など、国家が育児事業において一貫して堅持しなければならない諸原則が、第2章「子ども栄養食品の生産と供給」(全16カ条)においては、子ども栄養食品の生産と供給に関する基本要求および中央指標と地方指標として計画化し生産しなければならない食料品、その生産と供給において提起される主要内容について規定されている。第3章「児童養育条件保障」(全33カ条)においては、その基本要求および託児所や幼稚園建設における位置選定から始まり、設計、運営と補修、管理、子ども用品生産の保障と子ども食糧供給、託児所、幼稚園に対する後援と社会的支援、子どもたちの教育教養に必要な児童文学芸術作品創作と児童放送時間の正常的運営、子どもに対する保護管理について、その他、育児事業を担当する機関などに支障をきたす行為や違法行為を禁止することが規定されている。そして、第4章「育児事業に対する指導統制」(全8カ条)においては、育児事業に対する掌握と指導及び総括、保育園、教養員養成と資質向上体系の樹立、育児事業に対する監督統制、そして、本法を守らない責任ある者に対して課される行政的及び刑事的責任について、具体的に規定されている。

最近、日本においても育児環境の変化を大いに反映し、育児・介護休業法が改正(2023年10月)され、保護者が仕事と育児を両立できるような社会環境の整備を目指したものの、その現状は比較的低い水準に留まっており、保育施設の不足からなる待機児童の問題はまさに大きな社会的問題となっている。

資本主義制度が孕んでいる本質的矛盾が存在する限り、育児事業関連法にその主体である保護者やその子どもたち自身の要求と利害関係が正確に反映されることは非常に困難であり、とりわけ国家と社会が自己の責任と義務として未来の主人公である子どもたちを育てるというプロジェクトが実践されることは期待し難い。

そのような意味でも、朝鮮の育児法は社会主義制度の底力の表れであるといえよう。

朝鮮の育児法の特徴は、それがプログラム規定ではなく、国家が責任をもって、国家の財政で、実質的に育児環境を整備する点にあり、法律で規定された諸内容を遵守しない場合、罰則規定によって担当機関が責任をしっかりと負う点にある。このような立法の根底には、国家と社会における子どもの地位と役割に対する主体的な哲学的解明があるといえよう。

「朝鮮民主主義人民共和国において子どもは、祖国の未来であり、社会主義建設の後備隊であり、代を継いで革命する我が革命偉業の継承者である」。1976年に制定された「子ども保育教養法」の第1条である。未来を大切にするこの立法趣旨が育児事業の根底にあるということを再確認できる法律がまさに本法である。

(朝鮮大学校政治経済学部学部長、教授)

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