〈本の紹介〉ジャカルタ・メソッド/ヴィンセント・ベヴィンス著
2023年10月11日 11:45 文化反共産主義十字軍と世界をつくりかえた虐殺作戦
1955年、インドネシアのバンドンでは「人類史上はじめての有色人種による大陸間会議」といわれたアジア・アフリカ会議が開かれた。このバンドン会議には、世界人口のおよそ3分の2を擁する第三世界諸国の代表が集まった。東西両陣営いずれにも属さず、反帝国主義と反植民地主義のもと団結しながら民族自決の未来を切り拓いていこうとする第三世界において、会議のホストを務めたインドネシアは中心的な役割を担っていた。
同国はしかし、65、66年のクーデターとその間に「反共」の名のもとで行われた民間人の大虐殺(100万人以上が殺害されたとも言われている)を機に米国に従順な同盟国となった。一連の動乱の裏には、米国の中央情報局(CIA)がインドネシアを皮切りに、全世界で行った共産主義者「絶滅」プログラムがあった。これが「ジャカルタ・メソッド」である。
本書は近年に機密解除された文書と膨大な資料、12カ国での取材に基づき、米国政府の反共十字軍と言えるCIAがいかにして非情なプログラムを地球規模で展開し、世界中に親米政権を誕生させ、第三世界の運動を頓挫させたかを明らかにしている。筆者によると、反共「絶滅」プログラムは45年から90年にかけて少なくとも23カ国で実行された。これには南朝鮮も含まれている。
筆者が強調しているのは、反共主義の原理によって組織、正当化された「絶滅」プログラムのネットワークが冷戦における米国の勝利に大きく貢献し、その暴力が今日の世界を土台から作り上げているということ。筆者は、米国が主導するグローバルな資本主義システムが確立されたプロセス、いわゆる「アメリカ化」された世界秩序の構築に一役買ったのが「ジャカルタ・メソッド」だと述べている。
本書の白眉は、歴史的記述とそれに対する洞察もさることながら、筆者が数年間をかけて世界各国で集めてきた証言者たちの肉声だ。世界秩序が多極化へと進んでいる今日、抑圧されてきた第三世界人民の声に耳を傾けることがわれわれにはいっそう求められている。
(徳)