〈関東大震災朝鮮人虐殺100年〉弁護士らがシンポ主催
2023年09月14日 09:01 歴史“国が民衆を組織した責任は明白”
東京弁護士会が主催するシンポジウム「関東大震災100年―記憶の虐殺に抗して―」(共催=日本弁護士連合会)が11日、東京都千代田区の弁護士会館で行われた。
この日のシンポジウムは、関東大震災から100年に際し、1923年当時の国家的ジェノサイドを考え、それと連関性をもつ現代のヘイトクライムやヘイトスピーチ、それらが蔓延する日本社会の在り様を問う目的で企画された。
李世燦弁護士(東京弁護士会・外国人の権利に関する委員会委員)が総合司会を務める中、はじめに、主催者を代表し、東京弁護士会の黒嵜隆副会長が開会のあいさつを行った。
黒嵜副会長は、大震災から100年の節目を迎え、多くのマスコミが当時の震災被害を取り上げ、その中の一部として朝鮮人・中国人虐殺を扱う一方で、「現在に至るまで虐殺の史実について検証し、ヘイトスピーチが蔓延する社会の在り方について十分に考えてこられなかったのではないか」と問題提起した。そのうえでシンポが「問題を検証し、人種差別の根絶はもちろんのこと、すべての人が互いを尊重する社会の実現に近づくような有意義な場になれば」と語った。
つづいて、日本弁護士連合会からの報告として、梓澤和幸弁護士(元日弁連人権擁護委員会・関東大震災朝鮮人・中国人虐殺問題調査部会責任者)、北村聡子弁護士(日弁連「人種的憎悪を煽る言動などについての検討プロジェクトチーム」委員)が順にマイクを握った。
『通説』撒くメディアを非難
梓澤弁護士は今から20年前、自身が日弁連・人権擁護委員会の一員として作成に携わった「関東大震災人権救済申立事件調査報告書」(2003年7月)と関連し発言した。同報告書は朝鮮人虐殺を目撃し、晩年までトラウマを抱えながら生きた故・文戊仙さんが、1999年、日弁連に対し行った人権救済申し立てを受けて作成されたもの。日弁連は、約4年の調査期間を経て作成された報告書の内容に基づき、同年8月25日、日本政府に対し、虐殺の真相究明と謝罪を求める勧告書を提出するに至った。
梓澤弁護士はまず、6千人以上の朝鮮人犠牲者を出した虐殺の原因について、「メディアやリベラルを含む人権を擁護する人々の中でも、当時の人々が流言飛語や噂に突き動かされてしまったというのが『通説』になり、『言説』と化している」と警告を発した。
同氏が責任者を務めた調査部会では、調査当時、文さんからの事情聴取を経て、学者や関係者への聞き取り、防衛庁(当時)や憲政資料室での膨大な資料閲覧など事実調査を徹底した。結果、朝鮮人虐殺の原因は、朝鮮人による放火や暴動のうわさを事実のように全国へ通告した国(内務省警保局)にあると結論づけた。実際に、当時の調査を通じて軍隊による殺害事件12件(東京府大島町3丁目付近で、3人の兵士が朝鮮人を銃把で殴打したことをきっかけに、群衆と警察により朝鮮人200人が殺された事件など)が判明している。
さらに同氏は、23年9月3日午前から正午にかけて、内務省警保局長を発信者に、各地方長官、朝鮮総督府警務局長、山口県知事宛に出した公電の記録(調査報告書に詳細)にも言及。「各地方長官宛の公電には『東京付近の震災を利用し、朝鮮人は各地に放火し、不逞の目的を遂行せんとし、現に東京市内に於て爆弾を所持し、石油を注ぎて放火するものあり』とあるが、今でいう警察庁長官が『現に』朝鮮人が放火しているなどと公電で流した。これのどこをみたら、原因が流言飛語にあるといえるのか」。
梓澤弁護士は、前述の調査経験を踏まえ、「日本国の軍隊が手を下し、国家最高の官僚である警保局長が朝鮮人の『放火説』、『井戸に毒投げ入れ説』を公電で流し、都道府県知事や軍組織、在郷軍人、青年団や消防団などに伝わった。もちろん民衆の責任はあるが、国家が民衆を組織し、国家の意志で(朝鮮人を)殺した」と強い口調で語った。そして最後に「国の責任を明らかにすること」が今後の論点であると、怒りを込めて声高に訴えた。
北村聡子弁護士は、最近のヘイトスピーチに関する日弁連の取り組み、なかでも今年4月14日付で公表された「人種等を理由とする差別的言動を禁止する法律の制定を求める意見書」について説明した。
北村弁護士は、日本国内におけるヘイトスピーチ禁止法の制定を求めた同意見書を踏まえ、今後の日弁連の取り組みとして▼総合的差別禁止法、▼ヘイトクライムに対する新たな法規制、▼国内人権機関と個人通報制度の設置を求めていくとした。
一方、この日のシンポでは、「現代レイシズムと歴史の反復」をテーマに、同志社大学の板垣竜太教授が基調講演を行った後、パネルディスカッションが行われた。壇上には、パネリストとして、板垣教授、一般社団法人ほうせんかの慎民子理事、金哲敏弁護士(外国人の権利に関する委員会委員)が登壇。師岡康子弁護士(外国人の権利に関する委員会委員)がコーディネーターを務めた。
シンポは、林純子弁護士(外国人の権利に関する委員会委員長)の閉会のあいさつで閉幕した。
(韓賢珠)