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【新連載】〈まるわかり! 法律で知る朝鮮1 〉本連載を始めるにあたって/李泰一

2023年07月01日 08:30 寄稿

社会主義法治国家建設を目指す

■はじめに

法律とは社会の上部構造であり、当該社会の実情が正確に反映される。本連載(月1回)は、法律から朝鮮の社会を見るものだ。

最近、朝鮮新報を通じてペク・ナムリョンが書いた朝鮮の中編小説『友』が、日本語に訳され小学館から出版されたことを知ったが、この小説は、離婚問題をめぐって朝鮮の実情をリアルに描いたがゆえに、西側でも広く紹介されたのだろう。まさに、朝鮮の家族法からみた朝鮮社会の実情なのだ。

金正恩時代は、社会主義法治国家を国家建設の中枢にすえている。とくに、2019年以降、最高人民会議での立法措置は目に余る勢いだ。凄まじいスピードで新しい社会主義の政治システムが作られている躍動感がある。直近では、朝鮮と在日同胞との関係を政策や恩恵ではなく、法律で規律するため、海外同胞権益擁護法(22年2月)が制定されたが、まさにその現れであり、本法は金正恩時代の海外同胞政策の目玉、象徴的事象であると言っても過言ではない。

第1回(全12回の予定)は、総論として、なぜ朝鮮が社会主義法治国家建設をビジョンとして打ち出したのかについて11年以降公開された諸文献を手がかりに解説を試みたい。

第2回からは、筆者をはじめ朝鮮大学校の法学講座常勤教授たちが、朝鮮の具体的法律を素材に、朝鮮社会に対する分析を企ててみようと思う。

朝鮮で法制定は最高人民会議でのみ行われる(写真は19年4月の最高人民会議第14期第1回会議、朝鮮中央通信=朝鮮通信)

■社会主義法治国家建設ビジョン提示の背景

金正恩総書記は、12年の時点においてすでに、社会主義法治国家建設構想を打ち出していたが、19年4月に開催された最高人民会議第14期第1回会議における自身の施政演説において再度、この構想を提示した。

この施政演説は、朝鮮の人民代表機関である立法府において、そのタイトルにもあるように、「現段階における社会主義建設と朝鮮政府の対内外政策」を提示した公式文献であり、本会議が、党第7回大会(16年5月)以降、そして、戦略国家の地位へと上昇(17年11月)し、新たな戦略的路線が提示された(18年4月)以降に開催されたことを鑑みると、また、この施政演説の内容が、党第8回大会(21年1月)において採択された諸政策へと受容されている点を考慮すると、社会主義法治国家建設ビジョン提示の背景について以下のように整理しうる。

第一に、戦略国家へと急浮上し、自尊と繁栄の新時代、わが国第一主義時代を切り拓いた朝鮮にとって、社会主義強国建設の唯一無二の方途が、過去数十年間に備蓄された主体的な力、内的動力を遺憾なく発揮させること、すなわち、対外情勢をはじめとする客観的諸条件を口実とせず、自力更生を不変的指針として、社会主義強国建設を全人民の力で推し進めていくことが最重要課題として提起された現実的要求に起因する。

もちろん、主体的な力や内的動力を遺憾なく発揮するためには、大衆運動などが有意義であり、従来の朝鮮ではそのような方法を取ってきた。しかしながら、金正恩時代は、より実用性を強調する。大衆運動や思想教養事業だけでは足りない。法的拘束力が必要なのだ。わが国家第一主義時代の国家は、社会主義法治国家であり、政治思想強国、軍事強国を建設した今日、経済強国建設が主眼となっている現状において、社会主義法治国家建設はその土台であり必須的要求であったといえよう。

第二に、人民大衆第一主義との関連で本構想の提示要因を指摘しうる。

党第8回大会では国家建設理念として、以民為天、一心団結、自力更生の三大理念を再確認した。

そして、人民大衆第一主義を政治理念として高く掲げ、党活動の改善を明確に強調した。「新時代党建設5大路線」(22年)もまさにそのために提示したものであり、思想建設、組織建設、作風建設に、政治建設と規律建設の2つが加わり、5大路線となった。ここには社会主義法治国家建設と通ずるものがあるといえよう。人民の権利を保護するために、権力主義や官僚主義に対し法的規制をかけ、これらを徹底的に打破しようとする政治意思が強く伺える。

第三に、社会主義・共産主義という人類未到のプロジェクトを達成するためには、社会主義法治国家は必ず通過すべき国家形態であるという、新たな社会主義国家建設理論提示に対する要求に応えたものである。

社会発展に則し新たな経済管理システムを創設する問題については、従来、幾度も強調されてきたが、政治システムの更新についてはあまり論じられてこなかった。金正恩時代の特徴は、政治システムの問題、すなわち、社会主義社会の生命線である人民政権強化のために政治の主体である人民たちの力を無限大に発揮できるような政治システムをどのように構築するかについて、大胆に提起し、その問題点について制約なきメスを入れた。

金正恩総書記の執権10年の歴史は、まさに、党と国家機関で働く活動家たちの意識改革に注力し、人民大衆第一主義が単なるスローガンとしてではなく実際に具現される政治システムを考案する過程であった。社会主義法治国家というビジョンはまさにその表出である。

現在朝鮮では、社会主義法治国家を目標にすえ、財やコネではなく、人民の法によって、人民たちが遵守し、人民たちの夢と希望が現実化していく社会主義社会の建設を目指すことを、全人民の合意として取り決め、そのための措置を立法という形で整備している。

上述のことから、朝鮮が目指す社会主義法治国家とは、自主の路線と自力更生原則を生命とする法治国家、人民大衆第一主義を徹底的に具現した法治国家、党の領導に徹底的に依拠した法治国家であるといえよう。

(朝鮮大学校政治経済学部学部長、教授)

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