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〈読書エッセー〉晴講雨読・北南離散家族の物語『アリランの青い鳥』/任正爀

2023年07月26日 09:00 寄稿

日本で朝鮮人科学者について書かれた本は5冊であるが、日本人作家によるものが二冊ある。その一冊が1984年に講談社から出版された遠藤公男『アリランの青い鳥』で、朝鮮を代表する鳥類学者・元洪九博士の有名なエピソードを中心にした実話に基づく小説である。まずは、そのエピソードの内容を紹介しよう。

『アリランの青い鳥』

1964年のある日、平壌万寿台の麓の草むらの中から一羽の「シベリアムク鳥」が生け捕りにされた。この鳥の足首にはアルミニウム製の標識足環がついていた。この鳥を送られた元洪九は足環に刻まれた文字を詳細に調べた。そこには「農林省JAPAN・C7655」と刻まれていた。これを見たかれはちょっとした疑問を抱いた。足環から推して日本の学者が飛ばしたことは明らかだが、これまでシベリアムク鳥は日本にはいないとされていたからである。

しかし、この鳥が日本にもいることになると新発見ではないか? 元洪九は日本にある山階鳥類研究所に、「C7655」の番号が刻まれた足環をつけた鳥が平壊で生け捕りにされたと通報した。その後、待ちに待った返答は次のようなものだった。

日本農林省の名が入った足環「C7655」は日本製のものだが、日本では「シベリアムク鳥」を飛ばした事実はない。ただ、南朝鮮の鳥類学界が数年前まで日本農林省製の足環を使っていた事実がある。南朝鮮に問い合わせて得た報告は次の通り。

「放鳥地:京城林業試験場/放鳥年月日:1963年6月7日/放鳥者:ウォン・ピョンオ/種類:Sturnia sutarnia」

返答に目を通していた元洪九はその名前から目を離さなかった。ウォン・ピョンオ、それは末息子につけた名前だったからである。

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