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〈金剛山歌劇団2023〉待望の本公演―見どころに迫る(上)

2023年06月21日 13:43 文化・歴史 暮らし・活動

今年5月、新型コロナの感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同様の5類に見直され、行動制限が大幅に緩和されるなど3年余りにおよぶコロナ禍に変化が訪れた。金剛山歌劇団も6月スタートの本公演は4年ぶり。2023年公演の幕開けとなった東京公演(9日)の会場には約1千人の観客が駆けつけ、日常が戻りつつある中での公演開催を歓迎した。朝鮮の文化芸術の魅力を存分に堪能できる伝統作を中心に構成された今年度の公演。団員たちに公演にかける思いや見どころを聞いた。

“祖国を描き、感じてほしい”

歌手・李栄守さん(69、人民俳優)

歌手生活44年目を迎えた李栄守さん

「生まれ育った故郷を遥か彼方に残し、玄海灘を前にどれほどの涙を流したのだろう(나서자란 내고향을 저멀리 남겨두고 현해탄에 흘린 피눈물 그 얼마이더냐)」。

重厚な歌声と共に、場内に響き渡る歌詞が観客の涙を誘う。聴くものを瞬く間に歌の世界へと惹きこむ声の持ち主は、歌劇団の看板歌手であり、人民俳優の李栄守さんだ。

今年度の本公演で李さんが独唱を披露するのは、1985年の総聯結成30周年に際し、朝鮮芸術映画撮影所と総聯映画製作所が共に手がけた合作映画「銀のかんざし(은비녀)」の挿入歌「ああ、我が祖国(아 내 조국)」。朝鮮新報を配達する分局長として、約20年ものあいだ祖国統一の願いを胸に、愛国事業を全うした在日朝鮮人1世の活動家が主人公の同作は、公開当時、祖国の人々と在日同胞たちに深い感銘を与えた。一方、作品に花を添えた名曲を、「まさか自分が独唱で歌うことになるとは思っていなかった」と李さん。入団以来、本公演のステージでは自身初披露となった同曲に込める思いは強い。

「作品の主人公もそうだが、この曲の作曲家は、金日成賞桂冠人であり人民芸術家のソ・ジョンゴン氏。かれは幼い頃に渡日した在日朝鮮人1世で、のちに朝鮮へ帰国した同胞だ。ソ氏が手掛けた旋律からは、植民地支配された故郷を離れ、異国の地で生を紡いだ1世同胞たちにとって、祖国がどれほどかけがえのない標であったのか、苦難の中で守り抜いた組織や同胞社会への熱い思いが感じられる」(李さん)

兵庫・姫路で生まれ育ち、現在は東京・足立に暮らす李さんにとって、「1世の分会長たちが新報を配達していた姿は、いまも鮮明に浮かぶ」トンネの原風景だという。

1世から2世、2世から3世・4世へと世代交代が進む今だからこそ、異国の地で道をつくり歩んできた先代たちの祖国、組織、そして同胞社会への思いを「歌声を通じて次世代たちが受け取ってくれたら」と切に願う李さん。

神戸朝高を卒業後、1979年に歌劇団へ入団。今年で歌手生活44年目を迎えた。来年は金剛山歌劇団が創団50周年を迎える記念すべき年。李さんは「私たちは同胞たちのために、祖国のために歌をうたうイルクンであり歌手だ。自分の歌声を通じて、同胞たちが自分にとっての祖国とは何かを考え、いまは往来が困難な『我が祖国』を身近に感じてもらいたい。そして来年こそ、金正恩総書記が観覧される中での祖国公演を実現できるよう、その日まで頑張りたい」とあふれる思いを語った。

明日への希望を届けたい

舞踊手・金莎倻さん(26)

迫力あるステージで観る人々を魅了した群舞「強盛復興アリラン」(中央が金莎倻さん)

今回の公演で舞踊「モランボンの春」「貝殻の舞」などに出演した、舞踊手の金莎倻さん(26)はフィナーレを飾った群舞「強盛復興アリラン」で初の主演を務めた。群舞「強盛復興アリラン」は朝鮮の国立民族芸術団が創作した作品で、今年の「4月の春人民芸術祭典」でも披露された。

金さんは初となる群舞の主演抜擢に「独舞と違い、10人で舞う作品の中心でみなを牽引するリーダーとしての責任感がのしかかったのと同時に不安もあった」という。そのプレッシャーや不安に打ち勝てたのは「頼もしい先輩や後輩たちの存在があった」と話す。とりわけ練習過程で困難にぶつかったときには「公演を待ち遠しく思ってくれるファンの人たちや指導をしてくれる先生方の期待に応える」思いで練習に励み、自身の課題を克服しようと努めたという。

今回の巡回公演で上演される舞踊作品について金さんは「祖国の作品群を金剛山歌劇団が朝鮮創建75周年の年に日本の地で舞うことは、大きな意義があること」だと述べる。また、自身が主演を務める群舞「強盛復興アリラン」では「ゆったりとした民謡に合わせるチャンゴの舞とは違い、今回は明るい曲調、躍動感のあるリズミカルなテンポに合わせて踊るため、見る人々が新鮮な気持ちを感じられるはず」だと見どころを語る。その中でも「チャンダンや、サンモが登場する盛大なフィナーレに注目してもらいたい」と、金さん。「私たちの力強い姿や明るい未来への希望を祖国はもちろん、同胞社会に風となって伝えていきたい」と微笑む。

金剛山歌劇団が創団50周年を迎える来年は、かのじょにとっても「意義深い」年だ。金さんは「金日成主席が直接名づけてくれて、先代たちが代を継いで守ってきた金剛山歌劇団」の一員としてのプライドを語りながら「朝鮮の芸術を愛する一人として、そのすばらしさや民族の心を舞踊で表現できるように鍛錬していく。そして多くの人々に支えられてきた歌劇団を引き続き守っていくために、舞踊を通じて勇気と力、幸せを届けたい」と力を込めた。

(文・韓賢珠、高晟州、写真・盧琴順)

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