〈トンポの暮らしを支える/こちら同胞法律・生活センターです! 34〉在留資格「特定技能2号」
2023年05月13日 12:00 寄稿入管庁が大幅な対象拡大を提案
入管制度において今通常国会に出された入管法改定案とは別に新たな動きが出てきています。「特定技能2号」という在留資格の対象拡大です。
報道によると「出入国在留管理庁は24日、自民党の外国人労働者等特別委員会で、熟練した技能を有する外国人労働者が取得できる在留資格『特定技能2号』の大幅な対象拡大を提案した。実現すれば人手不足が深刻な12分野で外国人の無期限就労が可能になる。対象拡大には閣議決定による法務省令の改正が必要で、政府は6月の閣議決定を目指したい考えだ」(2023年4月25日、毎日新聞)とのことです。
この「特定技能」という在留資格は、経済界の強い要望を受けて2018年の臨時国会における出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)改正案が可決され、翌2019年4月から設けられました。人手不足を補うことを目的に始まったもので、技能試験と日本語試験に合格するか3年の技能実習を修了すれば取得できる「1号」(在留期間は通算5年)と、より熟練した技能が必要で在留期間の更新回数に上限がなく、家族帯同も可能な「2号」とに分けられています。
この1号、2号というのは、従来、移民政策へ舵を切ることに消極的な日本政府が、労働力不足を埋めるために外国からの労働力をさらに多く求めながらも、日本に住み続けることができる人は厳しく制限しようという発想によって仕切られたものです。表(「特定技能」対象拡大案のあらまし)にあるように、これまで1号については12分野への就業を認める一方、2号については「建設」と「造船」の2分野にしか認められていませんでした。
1号(相当程度の知識・経験、最長5年、家族帯同不可) |
2号(熟練した技能、更新無制限、家族帯同可) |
|
建設 |
〇 |
〇 |
造船 |
〇 |
〇 |
ビルクリーニング |
〇 |
×⇒〇 |
製造業 |
〇 |
×⇒〇 |
自動車整備 |
〇 |
×⇒〇 |
航空 |
〇 |
×⇒〇 |
宿泊 |
〇 |
×⇒〇 |
農業 |
〇 |
×⇒〇 |
漁業 |
〇 |
×⇒〇 |
飲食料品製造業 |
〇 |
×⇒〇 |
外食業 |
〇 |
×⇒〇 |
介護 |
〇 |
× 「介護」という在留資格が別途にあることから |
この対象拡大案がそのまま実施されれば、少なくない同胞商工人が携わる外食業や製造業等の業種においても外国人労働者が長きにわたり就労することが可能となり、大いに注目されます。
法務省内では昨年12月から、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が開催されており、同会議は4月28日に、中間報告書(最終報告書は秋に取りまとめる予定)をまとめています。そこには、「特定技能2号」の対象分野拡大のみならず、「技能実習」制度についても「現行の技能実習制度は廃止して人材確保と人材育成(未熟練労働者を一定の専門性や技能を有するレベルまで育成)を目的とする新たな制度の創設」、「新たな制度と特定技能制度の対象職種や分野を一致させる」と提言しています。人手不足に悩む業界の声を背景に、外国人労働者の受け入れ拡大を念頭に置いた制度の再整備を進めていることは明らかです。
入管法では特定技能に関して基本方針を策定または変更する折には閣議決定を必要としている(入管法2条の3の3項および5項)ことから、「閣議決定による法務省令の改正」(前述の毎日新聞)をしようとしているようです。しかし、在留期間が基本的に10年を超えれば「永住」資格の道も開けてくるということもあり、「外国人の長期就労や永住者を増やす政策は保守層に慎重論が根強いことから、議論が難航する可能性がある」(同上)という見方もあるようです。
しかし、外国人の労働力に、より依存せざるを得ない日本経済の状況から見た場合、大きな流れとしてはこの方向に進むことになるのではないかと思われます。
そのうえで、何よりも重要なことは、同じ日本に生活する人として、外国人労働者の尊厳を認め、その生活を、人としての権利をどう保障していくのかについてしっかり論議し、施策に反映させることです。4月からは「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」(第1条)、「全てのこどもについて、個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、差別的取扱いを受けることがないようにすること」(第3条)を謳った「こども基本法」も施行されましたが、朝鮮学校をはじめとする外国人学校への差別撤廃はもちろん、外国にルーツを持つ子どもたちの学びの保障においてもすべきことは山ほどあります。外国人は「煮て食おうと焼いて食おうと自由」*ではないのですから。
*法務官僚(当時)の池上努が「法的地位200の質間」(1965年、京文社)という本で述べた見解
(金東鶴、同胞法律・生活センター事務局)