〈本の紹介〉空爆論: メディアと戦争/吉見俊哉著
2023年02月03日 08:00 文化降り注ぐ植民地主義の「眼差し」
空爆の現場には、はるか上空から俯瞰し、爆撃によって破壊と殺戮をもたらす権力と、しばしば不可視化される地上の光景を世に伝えようとする抵抗勢力、という対立的な関係が存在する。同時に攻撃側と被攻撃側の間には、軍事面などにおける圧倒的な技術力の差がある。このような現実を論じる上で、メディア社会学の第一人者である著者は「空からの眼差し」、すなわち攻撃側の視点に着目する。
現代の空爆は、ジェット機やドローンをはじめとした飛行体を扱う技術はもとより、地上の標的を正確に可視化する上で重要なカメラや写真、人工衛星画像、GPS(全地球測位システム)などのテクノロジーの発達に支えられている。したがって著者は、「視ること」を保障する映像メディアは、「本質的に兵器としての次元を内包」していると主張し、「視ること」は「殺すこと」だと指摘。空爆を「メディア行為の一つ」と捉えている。
本書は「メディアとしての空爆の歴史」をテーマにし、緻密な計画のもとで10万人もの市民を焼殺した東京大空襲から、朝鮮戦争やベトナム戦争、アフガニスタンやイラクにおける米国の空爆、そして現代のドローン爆撃までの連続性を考察している。この中で著者は、朝鮮戦争時の米軍の空爆を「日本空爆の容赦なき再現」「ベトナム戦争の前史」と位置付けながら、加害側の証言や被害の凄惨さ、米国が原爆の投下を検討していた事実に触れている。
過去の空爆に「帝国による植民地主義」を見出す著者は、現代もなお帝国主義の暴力が続いているとしながら、米国が多用するドローン爆撃をメディア論的に分析。同国のドローン爆撃は自国民の生命を危険に晒さずずにすむからであり、国内世論対策に眼目が置かれていると指摘する。この点、人的被害を最小化しようとドローンを開発してきた米国の着想に、日本の神風特攻隊の自爆攻撃が影響を与えているという分析が興味深い。
終章では、現在起きているウクライナ問題についても言及している。
(李永徳)