〈ものがたりの中の女性たち64〉「それが両班の礼節ですか」―柳氏
2023年02月05日 16:05 寄稿あらすじ
妻を亡くした判書尹絳(ユンガン)は晩年に観察使として忠清道に赴く。ある村に着くと、観察使の行列をひと目見ようと村人が大勢集まり、女子どもは塀にもたれかかり見物している。混雑で塀が崩れてしまい、女たちは大騒ぎでその場を離れる。そんな中、ひとりの若い女だけが落ち着き払ってその場を離れ、静かに座っている。彼女は村長柳(リュ)杙(イク)の娘であった。娘は19歳でまだ未婚だと言う。彼女を後妻にと尹判書が告げると、父は喜んでその婚儀を受ける。翌日、結納と婚書(婚礼の挨拶の手紙)を使いの者に届けさせ、馬鹿なことをと思いつつその日は柳氏の家にひと晩泊る。観察使の仕事が終わり帰郷しても、還暦を過ぎていた尹判書は婚姻のことは黙っている。
ある日、家の前に行列が止まる。古い麻布で飾った輿が牛の背に乗せられて到着する。2人の息子が何事かと父に問うと、魔が差したのだと眉間に皴を寄せる。輿からは顔が四角く口が大きい、背が八尺はあるかと思われる女人が落ち着き払って降り立つと、笑う婢を指さしその態度を叱責する。そのまま出てきた息子2人にも、衣冠を正して庭に出るように言うと、父親が書いた婚書を投げ渡す。「私は父上の妾(庶母)ではなく継母です。身分の高い両班の生まれでありながらその様はいかがなものでしょう。そんな体たらくで王に傅くというのですか」