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〈時事エッセー・沈黙の声 31〉戦争国家宣言はクーデター/浅野健一

2023年01月20日 10:03 寄稿

先制攻撃準備は国連憲章違反

岸田文雄首相とバイデン米大統領の日米首脳会談を報じた1月15日の朝日新聞1面トップの4段縦見出しは「防衛強化 バイデン氏支持」で、横見出しは「安保政策転換 『同盟を現代化』」だった。他のメディアも米側が日本の防衛強化を歓迎したと報じたが、実際は、「バイデン氏支持」は「バイデン氏指示(命令)」だったのではないか。

岸田氏は「敵基地攻撃能力」(日本政府は「反撃能力」と言い換え)の保有や軍事費の大幅増を決めたと報告。バイデン氏は昨年12月16日に閣議決定した「国家安全保障戦略」など軍事関連三文書を「歴史的だ」と評価し、「我々は軍事同盟(ミリタリー・アライアンス)を現代化している」と応じた。岸田氏は日本国憲法違反の攻撃兵器である米国製の長距離巡航ミサイル・トマホークを導入する考えも伝え、日米共同で敵基地攻撃を行うことで合意した。

中朝ロを先制攻撃の対象に

会談後に発表した共同声明では、中国、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)、ロシアを名指しし、日本の敵基地攻撃能力の開発及び効果的な運用について協力を強化するとした。また、「広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)成功へ緊密に連携」などを謳った。

岸田氏は会談後、「大統領みずからホワイトハウスの南正面玄関に迎えに出てもらった」と記者団にコメント。報道各社は、バイデン氏が執務室に案内する際、何度も右腕を大きく岸田氏の背中に回しながら歩き、ご満悦の様子の岸田氏のどや顔を映した。会談前のメディア対応でも、バイデン氏は人差し指を岸田氏に向けるシーンもあった。

日本は第二次世界大戦のポツダム宣言受諾・無条件降伏後、米軍が単独占領し、独立後も在日米軍基地(70%が沖縄)を置き、10万人以上の米軍関係者が駐留している。国家の基本である軍事・外交は77年間、米国に統制され、在日米軍トップと日本官僚で構成する日米合同委員会(月2回開催)が三権の上に君臨しており、米国の植民地状態になっている。

バイデン氏はカメラの前で、日米軍事同盟の現代化と述べたが、朝日新聞が15日夕刊でそのまま報じた以外、報道各社は「日米同盟の近代化」「同盟関係の強化」と伝えた。単なる同盟と軍事同盟ではまったく意味が異なる。

岸田氏は首脳会談後、ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院で「歴史の転換点における日本の決断」と題して行った講演で、軍拡の「決断」を吉田茂首相の日米安保条約締結、岸信介首相の安保改定、安倍晋三首相の集団的自衛権行使の一部容認に続く、「歴史上最も重要な決定の一つ」と言い放った。

岸田氏は国会での議論をせず、人民に信を問うこともなく、閣議決定だけで強行した政策転換は、日本国憲法を順守する義務のある首相による憲法蹂躙であり、安倍氏が乗り移った岸田氏によるクーデターに等しい。

岸田氏は戦後、自民党政権が掲げてきた専守防衛を廃棄し、米国の対中侵略戦争に日本列島、とりわけ琉球の人民を差し出すと公約し、米国製武器を爆買いする契約を結んだ。戦後最も危険で愚かな首相だ。

岸田氏が訪米した14日、チョ・チョルス朝鮮外務省国際機構局長は国連のグテレス事務総長が12日に安全保障理事会で朝鮮の核開発を「非合法」と指摘したことを糾弾した談話で、国連憲章で日本は「敵国」と明記されていると指摘し、朝鮮半島の植民地支配を清算していない日本に安保理メンバーとなる「道徳的、法的資格はない」と主張した。

談話が指摘するように、国連憲章は日本など7カ国を連合国の「敵国」と規定し、加盟国(戦勝国)は戦犯国である「敵国」に再び侵略戦争を起こす兆しのある時は、安保理決議なしに先制攻撃できると3つの条項で明記している。米国と共に侵略戦争を構えると宣言した日本は、先制攻撃の対象になったと言えるのではないか。

広島サミットは被爆者への裏切り

米国の核の傘の下にあって、米国の対中戦争に全面加担を公約した岸田氏が「G7広島サミット」で核戦争の悲惨さを訴えるというのは、広島・長崎の歴史に対する冒涜だ。

広島県庄原市議会は昨年12月23日、「防衛予算の倍増を閣議決定した政府方針の撤回を求める意見書」を、賛成多数(10対4)で可決した。決議は「武器等の増量の理由が主権者にまったく説明されていない」と批判した。

広島県朝鮮人被爆者協議会の金鎮湖会長は日米首脳会談について、筆者の取材に「広島サミットが核兵器をなくす大きな契機になればいいのだが、日本の岸田政権は軍備増強一辺倒で米国の言いなりで、南朝鮮の現大統領も米国の言うことは何でも聞く状況になっている中で、我々が願う核兵器廃絶ができるのかという不安感がある。朝鮮半島にとっては非常に危険なことになっている」と指摘した。金氏はまた、「サミットを控える広島の雰囲気は、広島県・広島市の注目度が高まり、観光客が増えるなどの経済効果とか、そういう話ばかりになっている。サミット開催に批判的な声が多い。広島県人、市民への裏切りという声が強まると思う」と述べた。

安保3文書の撤回を求めないメディア

新聞各紙は社説で「国民への説明 後回しか」(朝日新聞15日付)「対中緩和へ外交も語れ」(東京新聞18日付)と題して、増税を伴う安保政策の大転換を国会で説明する前に、バイデン氏に報告したのは順序が逆だと批判し、23日から始まる通常国会で厳しく追及すべきだと主張した。主要メディアで軍事三文書の白紙撤回を求める報道機関はない。

岸田氏は敵基地攻撃能力保有に踏み切るため、昨年9月に政府の有識者会議(委員10人)を立ち上げたが、そのメンバーに船橋洋一・元朝日新聞主筆、山口寿一・読売新聞社長、喜多恒雄・元日経新聞社長が入っていた。

私が懸念するのは「左翼リベラル」文化人の中に、「中国の覇権主義の行動や北朝鮮の軍事挑発などの無法が許されないのは当然」(しんぶん赤旗15日付)「近年は中国が軍事大国化し、北朝鮮も派手な動きを見せている。日本を取り巻く国際環境が厳しさを増しているのは間違いない」(朝日新聞16日付、山田朗・明治大教授)などの言説があることだ。

いずれも、「しかし、防衛費増大は問題」と続けるのだが、米韓日、NATOの圧倒的な軍事力に触れず、中朝ロ3国の「無法」を持ち出すのは不当だ。

日米のトップは「あらゆる力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対」と言うのだが、米国こそ世界各地で武力による侵略を繰り返してきた戦争中毒、ならずもの国家ではないか。日本の侵略・強制占領の被害国である朝鮮と中国が日本を攻めるという仮説を持つこと自体が加害国として恥ずべきことだと思う。

古賀誠・元自民党幹事長ら自民党の長老が岸田氏の暴走を批判している。元宏池会会長の宮澤喜一首相(当時)は1992年にジャカルタを訪問した際の記者懇談会で、国会で議論されていた国連平和維持協力(PKO)法案に関し、「戦争を知らない若い世代の議員は、憲法の平和主義を理解していない。自衛隊の海外派遣で歯止めがなくなる危険性がある」と話していた。宮澤氏は岸田氏と同じ広島選出の議員だった。ハト派とされる宏池会からの久しぶりの首相になった岸田氏が安倍氏の敷いた路線を突き進んでいる。

プロフィール

1948年香川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1972~94年、共同通信記者。94年~2014年、同志社大学大学院社会学研究科教授。2020年4月、下咽頭がんが再発し咽頭・喉頭・頭頸部食道を全摘。無声ジャーナリストとして様々な媒体に寄稿している。

(本連載は、月に1回、日本の政治・社会問題や朝鮮半島を取り巻くさまざまなイシューをジャーナリストの視点で批評するものです。金淑美記者が担当します。)

(朝鮮新報)

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