短編小説「鉄の歴史」3/ビョン・ヒィグン
2022年12月25日 09:00 短編小説だが傷は致命的であった。ビョンドはあくる日の朝、息を引きとった。
「おい、ウンチル、わしらが溶鉱炉を復旧したら、首相さまをお迎えして、わしらの手で最初の溶銑を流そうと約束したっけな…だけどこのからだじゃ…わしは残念だ…このうらみを…このうらみをはらしてくれ…最初の溶銑が流れる日は、きっと、首相さまもいらっしゃるはずだ…わしからもよろしく申しあげてくれ!…。首相さまは…首相さまはきっとこのわしをお忘れにならず聞いてくださるにちがいない…もっとたくさん…もっとたくさん首相さまのおそばで働きたかったのに…ざんねんだ…」
これがビョンドが残した最後のことばであった。ウンチルの眼前には、うるんだ目で、まじまじと自分を見つめていたビョンドの顔が大写しになってうかんできた。金日成首相に導かれるこの国、この現実に別れを告げることがいかにも残念だというように、そして話しきれなかったたくさんのことが心残りでならないというように、せつなげな訴えのこもったその目が――。