歴史と自分、どう関連づけるか/「笹の墓標展示館」大阪巡回展


大阪中高美術部の生徒と教員、巡回展の関係者たち

強制労働の史実を伝える「笹の墓標展示館」巡回展が各地で行われるなか、大阪巡回展(9月21日~25日)では会期中、犠牲者らの遺骨発掘活動に長年携わってきた殿平善彦さん(「笹の墓標展示館再生・和解と平和の森を創る実行委員会」共同代表)と同実行委事務局員の金英鉉さんによる講演、巡回展実行委員によるトークリレーや追悼式のほか、同展に際し大阪中高美術部が制作した「展示館」の絵について、生徒たち自らが作品紹介をする場が設けられた。

「少し想像すれば強制労働犠牲者の遺骨が出てくることはわかるが、それをいままで想像したことがなく、身近に感じられなかった。ずっとやってきた方々へのリスペクトを感じているし、活動について知り、(史実に対する)想像と実感とがリンクしたのは自分にとってすごく大きい」。

生徒らに語りかける金潤実さん(中央右)

現在、大阪中高で美術講師をつとめる金潤実さん(32)は、そう打ち明ける。過去に中大阪初級で講師をつとめていた際、同校の保護者で当時地域青商会の活動にも尽力していた姜守幸実行委員長からの誘いで、大阪巡回展の実行委員を引き受けたという金さん。「他者と関わり合うなかで、自己についてもっと知り成長する機会になれば」との思いで、金さんが顧問をする大阪中高美術部の生徒たちが、巡回展にたずさわることになった。

8月に制作が決まって以降、美術部の14人の生徒たちは、一度も行ったことがない強制連行の跡地・朱鞠内や「展示館」について、姜実行委員長から講義を受けた。その後、生徒らは写真などの資料をみながら「文章ではない視覚的・感覚的情報を受け取って約2週間で作品を完成させた」(金さん)。

大阪巡回展の場内で、ひと際存在感を放っていた「展示館」の絵をみた殿平さんは、作品紹介を終えた生徒らに対し、「倒壊した展示館が本当に再現されたようで涙なしには語れない」と謝意を表した。

「展示館」の絵をみた殿平善彦さん(写真右)は、生徒らへ謝意を伝えていた。

「私は4世だが、自分の同世代やいまの生徒たちの世代は、過去の歴史や死者とどうつながりを感じればいいのかわからなかったりする。けど今回感じたのは、過去や死者を利用する人がいるが、それは一方的なもので、逆にみられていると思ったほうがいい。過去や死者からみて、現在の私たちはどうか、この感覚がすごく大事だと思っているし、これがよりパブリックなものになるよう、考え行動し続けたい」(金さん)。

また金さんや生徒らとともに、会場を訪ねた玄明淑さん(大阪中高中級部・美術部顧問)は、「過去の歴史について、教科書などから文字上の学習はたくさんするが、知識としてではなく、そこに心を寄せ、考え、小さな形でもいいので行動する、これはすごく大切な過程だと改めて感じている」と述べたうえで「民族教育のなかで歴史については沢山学ぶが、生徒たちが自分の力と考えと行動で何かに寄与できる機会はあまり多くない。貴重な機会に共にできたことを嬉しく思う」と感想を語った。

“誰かが葬った歴史”

位牌や骨箱とともに「展示館」を描いた大きな作品が、来場者たちを出迎えた

今回の巡回展のテーマは「遺骨そして死者との対話」。一人ひとりがこの史実に向き合ってほしいという、姜守幸実行委員長の強い願いが込められている。城北初級、中大阪初中(当時)、大阪朝高(当時)を卒業後、朝銀で務めたのち、機会あって民族学級の講師をした経験をもつ姜さん。当時の知人からの紹介で、26歳だった2000年から、東アジア共同ワークショップに参加するようになった。今回、大阪中高美術部に作品制作を呼びかけたのは、自身が目にした「強制労働犠牲者たちの歴史を、生徒らの世代にも伝え継いでいかなくては」という切実な思いからだ。

参加者たちはそれぞれの思いを紙に書き、ランタンに貼っていた

参加者たちはそれぞれの思いを紙に書き、ランタンに貼っていた

「2012年、芦別市でのワークショップに当時7歳と5歳の子どもたちを連れて8年ぶりに参加した。安置された遺骨との対面を光顕寺でしたとき、10年たっても犠牲者らの骨はずっとそこにある一方で、自分は10年で結婚して子どももできて人生が大きく変わっていることを目の当たりした。死者と生者の圧倒的な違いを強く感じ、自分は何をしていくべきか考えた」(姜さん)

一方で姜さんが、このような活動に対し積極的に関わるのは、2012年に中大阪初級に開設した「民族教育歴史資料室」の経験が大きいという。当時、東成地域青商会の幹事長を務めながら「資料室」の企画立案などに全面的に携わるなかで「従来関わりのなかった対象までもが足を運ぶような機会や空間をつくること、歴史を通じた出会いや人々のつながりをつくることへの可能性を感じた」ためだ。

たくさんの思いが寄せられたランタン

姜さんは、この活動の意義について「よくテレビやドキュメンタリーで『歴史は闇に葬られた』などというが、そこには主語がない。明らかに誰かが葬ったわけで、それに気づき行動しなくてはと思う」と述べながら「気の長い活動かもしれないが、この活動を、世代を継いでやっていくことに人々がつながり合う上での可能性があると思っている。しんどくても誰かが動くと共鳴してやろうという人が出てくるはず」と、朗らかな笑みを浮かべた。

(韓賢珠)