被告との面会、祈念館での出会い/ウトロ放火から1年、支部委員長の思い
2022年09月07日 09:50 権利事件乗り越え語る未来
朝鮮民族に対する差別意識に基づき、昨年8月に京都ウトロ地区などへ放火した奈良県在住の被告(23)に、懲役4年の実刑判決が言い渡された。事件から1年が経った今、関係者は何を思うのか。「ウトロ平和祈念館」副館長を務める総聯京都・南山城支部の金秀煥委員長が思いを語った。
印象は「かわいそうな人」
事件が起きたのは昨年8月30日午後4時10分ごろ。ライター用オイル入りの缶に付けられた火は瞬く間に広がり、空き家など計7棟が全半焼した。そのうち2世帯が焼け出され、ウトロの歴史を語る約50点の立て看板が焼失した。
被告の自白により、事件が朝鮮半島ルーツの人を狙った放火であることが明らかになった以降、被害者をはじめとする関係者たちからは、被告の犯行がヘイトクライムであるとの指摘が相次いだ。判決は「在日韓国・朝鮮人という特定の出自を持つ人への偏見」が動機であったことを認定したが、民族差別に基づくヘイトクライムとして断罪するには至らなかった。
判決要旨などによると、ウトロへ放火した被告の目的は「ウトロ平和祈念館開館の阻止」。法廷では朝鮮半島に対する誤った歴史認識も露呈され、6月の論告求刑で、被告は「ウトロ地区が不法占拠であることに違いはない」「植民地支配は被害妄想」「自分以外にも朝鮮への差別心を持った人が国内外にたくさんいる」など、デマや脅迫まがいの発言を繰り返していた。
金秀煥委員長は、火が放たれた当時、現場に居合わせた1人。同胞家屋が燃え上がるようすを現場で目の当たりにし、以降、事件の問題と深刻さを社会へ訴えてきた。
判決前の8月25日、金委員長は被告と初めて面会した。京都拘置所の面会所で、現在の心境などを聞いた。
金「ここ(拘置所)に入ってから心境の変化はありますか?」
「そうですね、心境の変化とまではいかないですけど記者たちと接する中で多少変わったものはあります」
金「結局のところ、何が目的だったのですか?」
「そうですね、今回目的としていたのは祈念館に対しての疑問、非難といったらあれですけど、抗議の意識です」
金「目的は達成されましたか?」
「部分的には、としかいいようがないですね。今となっては」
金「あなたの言っていることは在日に対する偏見や差別だと思いますか?」
「偏見や差別という意識が自分の中でもないわけではないですけど、(ウトロの)活動そのものを反日活動ととらえていた、そこが原点にあるとおもいます」
面会の序盤、被告は金委員長の顔をまっすぐ見ながら淡々と質問に答えたという。しかし、被告の主張する「在日特権」について金委員長が尋ねると、態度は大きく変わったという。
金「私は特権を享受したことがありません。(在日が)どういう特権を受けていると思っていますか」
「まあそうですね…例えば医療介護など部分的に(日本人と)制度が異なる部分がある。そういった部分の減免といいますか…生活保護費、医療費が免除されている…」
金「免れているとは?」
「外国籍の方の診察って費用がかからないケースが多い。生活保護とは違う形で…」
被告の言う医療費の免除や公共サービスの「特別扱い」は、排外主義者らによるヘイトスピーチでばらまかれ、ネット上で繰り返し拡散されてきたデマだ。被告は金委員長を前にデマを主張しながらも、時折目をそらし、答えに窮した様子を見せていたという。
金「看板が燃えて後悔や反省はないですか?」
「改めて何を訴えようとしているのか、自分の中で確立していないところもあります」
金「結局何をしたかったのかわからないということですか?」