〈今月の映画紹介〉雪道／リ・ナジョン監督

支え合い耐え抜いた少女たち

「今月の映画紹介」では、上映中または近日公開予定の注目映画を、月に1度、紹介します。

画面に1人の老婆が映し出される。悪夢にうなされて目覚め、1日の日課を淡々とこなす味気ない生活を送っているかのじょには、秘めた経験がある。

自身を「カン・ヨンエ」と名乗るかのじょの本名は「チェ・ジョンブン」。植民地統治下の朝鮮半島に生まれた。ジョンブンは亡き友人、ヨンエの名前を借りて生きていた。

同じ村に生まれ、違う階級を生きてきた2人。貧しい家に生まれたジョンブンは母と弟との3人暮らし。一方のヨンエは両班（リャンバン）家系で、学校に通い勉強もできた。

決して交わることのない2人に思えたが、ある事件をきっかけに同じ運命をたどることに―。

日本軍性奴隷制とその被害をテーマにした本作は2017年に南朝鮮で初公開された。日本では数回の自主上映にとどまっているが、国際テレビ番組祭典のひとつ、「バンフワールドメディアフェスティバル」や、中華圏3大映画祭にあげられる「金鶏百花祭」で最優秀作品賞を獲得し、国際的な話題を呼んだ。

生存者の証言を忠実に再現したことは然ることながら、本作の特徴は悲惨な性暴力のシーンを最小限に描いた点にある。監督は「生存する被害者らを前に、『見世物』として映画を消費したくなかった」とその意図を明かしている。