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父はなぜ語らなかったのか/安田菜津紀さんがたどるルーツの旅

2022年07月25日 09:00 権利

17日に行われたセミナー「父はなぜ、ルーツを隠したのか?家族の軌跡を巡る旅から見えてきたこと」では、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんが自身のルーツを探る過程で明らかになったことや感じたことを述べ、差別のない社会に向け自身が発信する意義を語った。

セミナー「父はなぜ、ルーツを隠したのか?家族の軌跡を巡る旅から見えてきたこと」が都内で行われた

幼いころの違和感

「幼いころから生活の中で、小さな違和感をたびたび抱いていた」。冒頭、安田さんはこう話し、幼少期の記憶から語りはじめた。

働き詰めだった父が珍しく早く帰ってきたある日、初めて絵本を読んでもらった。子育ての「鉄則」として母が毎日行ってきた絵本の読み聞かせを、代わりに父に頼んだのだった。

しかし父は何度もつっかえうまく絵本を読めなかった。しびれを切らした安田さんは、1冊読み終える前に「もういい」と突き返してしまった。

「お父さん変だよ、なんで読めないの。日本人じゃないみたい」。安田さんの言葉に父は笑うばかりだったが、どこか寂しげだったという。

「その時の父の顔が忘れられない。とりかえしのつかない事を言ったのかも知れないと思った」。しかしはっきりとした理由はわからず、心の中にわだかまりが残っていたという。

アイデンティティを見つめ

安田さんが自身のアイデンティティとはじめて向き合ったのは、高2の時。とあるプログラムでカンボジアを訪ねることになり、パスポート取得のため戸籍を取った。その際、父の欄に「韓国籍」という見慣れない3文字が記載されていた。

「自分のアイデンティティの前でフリーズしたようだった。同時に、絵本をスラスラ読めなかった父の背景など、幼いころの違和感に納得がいった」。教育の機会が十分に与えられず日本語を読むことが難しかった父について、のちに母が教えてくれたのだった。

誰かに話したい―。父の出自を知った安田さんは「在日」とネット検索をかけてみたという。しかし出てきたのは数々のヘイトスピーチ。以来、自身のルーツについて、気軽に話すことは躊躇するようになり、出自に対する後ろめたさを感じる不条理に悩まされ続けたという。

そんなかのじょに、ルーツに向き合ううえでの転機が訪れる。

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