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〈さくっと解説~知識の源Q&A〉ヘイトスピーチ・ヘイトクライムとは?

2022年07月09日 07:57 主要ニュース 権利

多様・複雑化する昨今の日本社会で、相互理解の前提となる知識や認識の積み重ねは、一層その必要性を増している。企画・知識の源Q&Aでは「社会を知る~今週のnewsトピック~」と関連して、今知っておきたい知識をQ&A形式で紹介する。

ヘイトスピーチ・ヘイトクライムとは?

放火事件後のウトロ地区の家屋

2016年に施行されたヘイトスピーチ解消法は、日本で初となる反人種差別法として、人種差別をめぐる社会の対応に大きな進展をもたらした。しかしいま、かねてから指摘されてきた現行法の限界性(罰則および禁止規定がない)は、昨年夏に起きたウトロ放火事件などのヘイトクライムや、近年、選挙運動という建前で公然と人種差別発言をする「選挙ヘイト」の横行からも分かるように、早急な法整備の必要性を示している。そのために社会に求められるのは「人種差別を見過ごさない、強い世論の声」(師岡康子弁護士)だ。ヘイトスピーチ・ヘイトクライムとは何か、改めて確認する。(参考・引用=外国人人権法連絡会「ヘイトクライム対策の提言」(一般公開版)、5.26院内集会事務局作成資料)

 

Q. ヘイトスピーチとヘイトクライムは何が違うの?

A. ヘイトスピーチとは、広くは特定の属性を理由とする差別表現、言動による差別であり、 その核となるのは「差別のあらゆる煽動」だ。一方、 ヘイトクライムは「いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為」をはじめとする、 特定の属性を有する集団や個人に対する差別的動機に基づく犯罪だ。

それぞれの定義には、煽動と犯罪という主な特徴があるが、両概念の本質は、特定の属性を有する人々の存在を否定し、その属性を理由に差別、攻撃するという点で共通する。

日本第一党のメンバーが行った川崎駅前での街宣を取り囲むカウンターの人たち(20年7月12日)

Q. 在日同胞をとりまくヘイト関連事項、どのようなものがあった?

A. 以下にその一部をあげるが、直近の3年間にも数々のヘイトスピーチ、ヘイトクライムが確認できている。

―2019年

  • 1月以降~:十条駅前や練馬駅前などで排外主義者たちが朝鮮学校を非難・誹謗中傷する街宣 ※19年7月5日に主犯格の男性に対し、同街宣を禁じる仮処分決定が出ている。
  • 3月9日:「京都朝鮮学校襲撃事件」から10年に際し、実行犯らが京都市内でヘイトデモ
  • 3月11日:JR九州・折尾駅でヘイト街宣 ※福岡法務局がヘイトスピーチと認定
  • 8月:在日韓国大使館への銃弾・脅迫文送付事件
  • 19年11月~20年7月:川崎市ふれあい館脅迫はがき事件(威力業務妨害罪により被告に懲役1年)

―2020年

  • 1月4日:多文化交流施設「ふれあい館」に差別脅迫はがきが投函
  • 1月27日:多文化交流施設「ふれあい館」に爆破予告はがきが投函
  • 5月10日:朝鮮大学校の校門前で排外主義者たちがヘイト街宣 ※街宣は17年から行われてきたが、21年3月8日に主犯格の男性に対し、同街宣を禁じる仮処分決定が出ている。
  • 6月16日、20日:NHK広島放送局の企画「1945ひろしまタイムライン」のSNSアカウントを通じて朝鮮人差別を誘発する内容が投稿される
  • 9月1日:関東大震災朝鮮人虐殺の追悼式の近くで、排外主義団体がヘイト集会

―2021年

  • 3月26日 川崎在日同胞女性への脅迫封書事件:被疑者不明
  • 4月9日:化粧品会社DHC会長が、同社HPに在日朝鮮人への差別文章を掲載 ※2016年、2020年にも
  • 7月24日:民団愛知県本部および名古屋韓国学校放火事件
  • 8月30日:ウトロ放火事件

Q. 日本政府は、これらのヘイト関連事項について対策をとってきた?

A. 日本政府は、国連人権機関からの再三の指摘に対し、「人種主義的動機は、我が国の刑事裁判手続において、動機の悪質性として適切に立証しており、裁判所において量刑上考慮されているものと認識している」(人種差別撤廃委員会への日本政府報告書、2013年)との従来の立場をとり続けている。しかし、実際に起きたヘイト関連事項は、ヘイトクライムとして適切な立証も量刑上の考慮もされてこなかった。

それは実態として、差別的動機の有無が捜査および刑事司法審査の対象として、公的に定められていない点に起因する。つまり、差別禁止法がないばかりか、ヘイトクライムの適切な定義や、判断指針がない現状は、政府としての対策が極めて不十分なことを意味する。

Q. ほかの国ではどのような対策がとられている?

A. イギリス、ドイツ、アメリカなど、すでに多くの国々で反ヘイトクライム法が制定され、問題解決に向けた改正の努力も積み重ねられてきた。例えばイギリスでは、刑事法によりヘイトスピーチ・ヘイトクライムへの対処がなされている。ヘイトスピーチは、1986年公共秩序法(Public Order Act 1986)の憎悪煽動罪として処罰される。

ヘイトクライムは、該当犯罪が集団への敵意に基づく場合、所定の犯罪の法定刑を加重する法律がある。また、ヘイトクライムが起きた場合、首相、検察(公訴局長官)、検察・警察(全国警察本部長評議会)による共同声明、地方議員・警察による声明等が直ちに出されるのが通例だ。

Q. ヘイトスピーチ・ヘイトクライムを放置したらどうなる?

A. 差別の放置は、社会にその状況を蔓延させ、差別構造を強化する。差別禁止法のない日本では「差別をする自由」があたかも「表現の自由」として保障されているように見なされ、無数の差別が放置され続けている現状がある。

また被害者であるマイノリティが、自身が標的とされた恐怖や自己喪失感、無力感などから声をあげられなくなり、自らの属性を日常的に隠す、外出やインターネットの使用を避ける等の状況に追い込まれてしまう。さらに、周囲や社会全体の無関心が苦痛を増加させる働きをする。

Q. 日本政府が緊急にとるべき対策は?

A. 外国人人権法連絡会では、「日本の現状や国際人権基準、先進各国の例などを総合的に勘案し、緊急にとるべきヘイトクライム対策」として、以下の12項目について提言している。

  1. 日本政府・国会によるヘイト根絶宣言
  2. ヘイト対策に関する担当部署を内閣府に設置
  3. マイノリティ当事者等による審議会の設置
  4. ヘイト事件発生時に、首長等による反ヘイト公言
  5. 被害者に対する支援、サポート
  6. 加害者に対する反差別研修プログラム
  7. 現行法による対応、人種主義的動機の量刑ガイドライン作成
  8. 法執行官に対する研修プログラムの策定と実施、プロジェクトチームの設置
  9. ヘイトクライムの捜査、公訴の提起と判決状況に関する調査実施
  10. 被害通報等の容易化に向けた体制整備
  11. ヘイトスピーチの禁止と制裁等
  12. 包括的な人種差別禁止法の制定、救済機関の設置、人種差別撤廃条約の個人通報制度への加入

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