【投稿】日本社会にはびこる歪んだ朝鮮観/金栄春
2022年06月24日 09:00 寄稿慰安婦問題、徴用工訴訟問題で日本と南当局の関係が最悪状態にあった時期の昨年8月、在日コリアンが集住する京都ウトロ地区と名古屋の韓国民団愛知県本部、隣接する名古屋韓国学校への放火、その後には奈良の民団北葛支部への不審火などの容疑で逮捕された奈良県桜井市に在住する22歳の青年が逮捕時、動機について供述した言い草が、自信たっぷりに「朝鮮人が嫌い」だからと言ったことに大きな衝撃を受けた。
この青年はこれまで在日朝鮮人の知人、友人もいなく、接触したこともないのに「朝鮮人が嫌い」だからと言ったということは、日本社会に根深くはびこる、歪んだ「朝鮮観」に汚染されての認識、犯行であったことを示している。
昨今、在日朝鮮人を標的にしたヘイトスピーチがとどまることなく広がり、それを煽り、実践している「在特会」などの排外主義的な団体や「ネット右翼」も拡大している。
東京・新大久保や大阪・つるはしなどのコリアタウンで「いい朝鮮人も、悪い朝鮮人も、みんな殺せ!」、「死ね!帰れ!」と口汚く罵る「ヘイトスピーチ」が何の制限もなく垂れ流されている。
今年は日本が朝鮮を植民地支配した1910年から112年、1945年8月15日の日本の敗戦による植民地支配統治の終焉から77年になるが、日本社会の「朝鮮観」は依然として歪んだままである。
日本は2010年に高校無償化を実施することになったが、朝鮮学校は除外した。神奈川県知事は、朝鮮の核実験を口実に何のかかわりもない朝鮮学校への補助金を停止、東京都町田市では各学校への「防犯ベル」支給対象から朝鮮学校を除外する差別政策を行政として施行した。
民間企業でも、化粧品会社DHCがライバル社に対し、ほぼ全員がコリアン系日本人であるとして、蔑称の「チョントリー」と揶揄し、自社は「純粋な日本企業」と記す民族差別をあからさまにしていた。
このような状況で「コリアNGOセンター」、「在日コリアン弁護士協会(LAZAK)」が連名で声明を発表し記者会見を行ったが、その中で「こうした直接的な被害のみならずヘイトクライムはより深刻な社会的影響を与えます。ヘイトクライムは単なる個人による偶発的犯罪ではなく、社会的につくられた差別構造に起因しております」と指摘している。
日本社会、日本人の朝鮮観について、これまで朝鮮史学者・旗田巍の『日本人の朝鮮観』(勁草書房1969年)、中国史学者・幼方直吉の『日本人の朝鮮観―柳宗悦を通して』(『思想』1961年10月号)、高崎宗司の『妄言の原形-日本人の朝鮮観』(木犀社1990年)」と琴秉洞の『日本人の朝鮮観―その光と影』(明石書店2006年)などが出版されている。
琴秉洞はその著書で「近年における日本人の朝鮮に対する蔑視感と侵略思想は、一に、神功皇后伝説、二に、豊臣秀吉の朝鮮侵略の歴史的事実、三に、明治初期の征韓論、四に、朝鮮植民地化過程とその完成に起因していると思われる」とし、その出発点は「八世紀―古事記、日本書紀に神功皇后の事跡として新羅征伐、三韓支配が記され、この神功皇后伝説こそは、日本人の朝鮮蔑視思想の出発点であり、朝鮮侵略思想の象徴的存在であった」と記した。
高崎宗司は日本の朝鮮観について、著書『妄言の原形』で「妄言は大別すると、第1に、1910年の日本の韓国併合は合意によってなされたもの、第2に、日本は朝鮮でよいこともしたというもの、第3に、悪いのは日本だけでない、韓国側にも問題があり、責任があるというものの三つがある」と記し、「この3点は、謝罪、賠償責任逃れや日韓交渉などに対する弁明型、自己正当型といえる」と指摘している。
日本は1984年から福沢諭吉を1万円札の肖像画としたが、これは現代における日本人の朝鮮観、アジア感を象徴する事象と思われる。福沢の朝鮮を蔑視し、日本の防波堤とみなしての「誘導」、「脱亜」、「脅迫」を正当化す論理は、明治期日本の朝鮮政策の基本的な考え方を代表するものであった。漫画作家・雁屋哲氏はある雑誌インタビューで「福沢がまき散らしたアジア蔑視、差別感情こそが民族差別意識を深めたのであり、現在の『ヘイトスピーチ』の原型と呼ぶべきです」と弾劾している。
日本は、1955年に人種差別撤廃条約に加入し、2016年6月からはヘイトスピーチ解消法が施行されているが、罰則や禁止規定のない理念法にとどまっている。このような法律では、日本社会における民族蔑視、差別、ヘイトスピーチを止められないことは明らかだ。
今後とも、在日朝鮮人の生活環境の行方が憂えてならない。
(東京都葛飾区在住)