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〈ものがたりの中の女性たち 56〉「彼との再会は私の決心なのです」―少女某

2022年05月03日 13:44 寄稿

あらすじ

高麗時代、何(ハ)生という若者が平原(ピョンウォン)にいた。代々家勢に勢いがなく、両親も夭逝する。だが、風貌、能力共に優れ、村中で彼の右に出る者はなく、村長が彼を太學(テハク)に推薦し科挙を受けることになる。ある日、駱駝橋の下にある評判の占い師を訪ね運勢を見てもらう。将来的には成功するが、直近は不吉であると言われる。その日は仲秋節である。

復元された新羅の実寸大の金尺

不思議なお告げに恐れを抱きながらさ迷い歩き続け、いつの間にか日が暮れている。自分がどこにいるのかも分からなくなり、遠くに見える明かりを頼りに路を進み、小さいが瀟洒な家の前に出る。ひと夜の宿を請うと、そこには絶世の美少女とふたりの侍女がいる。ひと目で恋に落ちた二人は、その夜、雲雨之樂を共にする。夜が明けると、彼女は自分がすでに生きた人ではないことを告げ、天帝の命に従い縁がある人との出会いのためにここにいると言う。何生に自分を忘れないでほしいと言いながら、金尺を渡した後ふたりは別れる。門を出て振り返ると屋敷は消え、そこには墓地があるだけだった。

少女の実家の奴婢たちが何生が金尺を持っていることを見咎め、彼を墓泥棒扱いする。それをきっかけに、彼女の両親に仔細を話す。すぐに墓が掘り起こされ、あろうことか少女が生き返る。その日から彼らは、三生之緣を喜び夫婦になる。その後、何生は科挙に合格し出仕、四十余年間仲睦まじく暮らす。

※太學(古代の中国や朝鮮・ベトナムに設置された官立の高等教育機関。 古代の教育体系においては最高学府にあたり、官僚を養成する機関)

※金尺(新羅の初代王朴赫(パクヒョク)居(コ)世(セ)が持っていたとされる、これで人を測ると死人は蘇り、病人は完治したという神秘の尺)

「何生奇遇(ハセンキウ)錄」は朝鮮王朝時代の文臣申光漢(シングァンハン)(1484~1555)の漢文小説。作者の漢文短編小説集「企齋記(キジェキ)異(イ)」に収録されている。木版本と筆写本が現存する。主人公の何(ハ)生が冥婚後、その相手の少女が生き返るという点が特徴的であるが、おどろおどろしい描写はなく、ふたりの恋心に沿った美しい詩がちりばめられている。

冥婚で結ばれたふたり

「企齋記異」

冥婚とは、生者と死者が行う結婚のこと。

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