〈ものがたりの中の女性たち 55〉私にも出来る、障害を越える/老處女某氏
2022年04月01日 11:47 寄稿あらすじ
「老處女歌2」
昔ある所に、身体に多くの障害を持つ両班の娘がいた。四十歳になろうというのに婚期を逸し、日々ため息をつく。色が黒く、片目は見えず、さらに難聴があり、左手と左足に障害がある。昼夜、物悲しい詩歌を詠み、わが身を嘆く。ある日、向かいの家に住む金家の子息と婚姻し、幸せに暮らす夢を見る。密かに思いを寄せ、何度も占った相手である。ところが犬の吠える声で幸せな夢から覚めると、虚しさにため息をつく。
しばらくして、両親と弟たちが金家に縁談を申し込むと、ことのほか話はとんとん拍子に進み、ついに向かいの家の子息との婚姻が決まる。元々思慮深く、勤勉な彼女は、家内をきちんと運営し、「老處女」のストレスから解放されたからなのか、すべての障害が消え生まれ変わる。その後、双子の男の子を産み、財産も蓄え、末永く幸せに暮らす。
「老處女歌1」
士族の両親が娘の嫁ぎ先を選り好みするあまり、四十歳近くになっても嫁げない女性が歌う。夜ごと寂しい部屋で不眠に悩まされ、自分を嫁がせない両親を恨む。家に人が訪ねてくれば仲人が来たのかと心ときめかせ、未来の夫を想像し幸せな結婚生活を夢見る。
早く嫁いでしまいたい心理と、士族の家柄と体面、伝統を重んじる両親のせいでどこにも嫁げない葛藤。没落した名門家の悲哀が切々と歌われる。
第五十五話 老處女歌
「老處女歌」は朝鮮王朝後期の作者、年代不明の歌詞。国文古典小説集「三説記」に収録されている。歌詞の形式ではあるが小説化の傾向が見える作品。当時、人気があったらしく異本が多い。婚期が遅れた「老處女」の悲哀を吐露する系統と、身体に障害があり醜く生まれた「老處女」が、心理的葛藤と努力の末結婚する系統の二通りがある。一般的に便宜上前者を「老處女歌1」、後者を「老處女歌2」と呼ぶ。「三説記」(※)収録のものは「老處女歌2」。