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短編小説「魚のために道をひらこう」16/陳載煥

2022年03月11日 14:05 短編小説

彼は、水に沿って北へ行くつもりであった。流れは、東に行ったり西に曲がったり、曲がりくねっているので歩みはどうしても遅くなり、いつしか敵のいる地域に一人とり残されてしまった。ひと足ごとに危険と不安がつきまとった。彼は、何回か、缶の中の魚を奥まった泉にでも放してやろうかと思ったが、いざ、缶をおろしてみると、なんだかすべてを無に帰すような空虚な気がして、実行することができなかった。しつこくつきまとう死の危機とたたかいながら、彼は、一分一秒をも惜しんで北へ北へと歩き続けた。木があり、水があり、米があるという得難いチャンスに出くわしても、彼は、ご飯も炊かず、生米をかじりながらただ歩き続けた。

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