公式アカウント

〈トンポの暮らしを支える/こちら同胞法律・生活センターです! 18〉相続~遺産分割調停

2022年02月10日 10:55 寄稿

身内が亡くなった際に相続人が複数いる場合、遺産は相続人が共有することになります。しかし、不動産などの物理的に分配することが難しい遺産については、そのままでは不安定な共有状態が続くこととなり、不都合です。

そこで、法定相続分にかかわらず、相続人全員が合意して、遺産の分配方法を柔軟に決めることが認められていますが、このような遺産分割の協議がまとまらない場合、裁判手続を通じた解決を図る必要があります。今回は、遺産分割調停について解説します。

Q 父が亡くなりました。遺言書はなく、父が遺した不動産の処理などについて相続人間で話し合いがまとまりません。どのような手続を取れば良いでしょうか。

A 相続人間で遺産分割の合意に至らない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。

遺産分割調停では、裁判官と調停委員が中立な立場で関与し、各相続人の言い分を整理し、場合によっては具体的な解決案を提示するなどして、当事者が円満に合意できるよう目指します。なお、話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続に移行し、裁判所が遺産分割方法を決定することになります。

Q 遺産分割調停の流れについて教えて下さい。また、同胞の相続の場合に注意すべき点はあるでしょうか。

A 遺産分割調停は、相続人のうちの一人または数人が他の相続人全員を相手方として申し立てる必要があります。そのため、相続人を確定するための身分関係資料を集める必要があります。日本国籍を有しない同胞の場合、日本戸籍を取得することはできませんので、本国の身分関係資料や日本の旧外国人登録資料を集めることになります。また、日本国籍を有しない同胞が被相続人となる場合、相続の準拠法が本国法となることにより、日本の民法とは相続人の範囲が異なることがあることも留意点です。

遺産分割調停の申立てにあたっては、分割すべき遺産を確定することも必要です。遺産の調査については、被相続人の遺した書類や郵便物を手がかりにして、不動産登記や固定資産評価証明による不動産の調査、預金通帳・有価証券や金融機関への照会による金融資産の調査等を行うことになります。

相続人と遺産の範囲を確定できれば、身分関係資料や遺産に関する資料を添付して、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。管轄は調停の相手方となる相続人の内一人の住所地の家庭裁判所となりますが、全相続人が管轄について合意できるのであれば、合意した場所の家庭裁判所とすることも可能です。

遺産分割調停では、裁判官と調停委員で構成される調停委員会が、申立人と相手方(申立てを受けた相続人)と交互に協議する方法で、双方の主張を整理し、言い分を整理したり、調整する手続きを進めます。期日は、通常は平日の午後に指定され、開催頻度は1カ月~1カ月半に一回程度です。当事者は、期日間に、前回期日で裁判所から指示された追加の資料収集や、主張書面の提出などを準備することになります。

なお、日本国籍を有しない同胞が被相続人となり、相続の準拠法が本国法となる場合には、調停委員が本国法に詳しくないことが通常であるため、本国法に関する資料や訳文の提出を求められることが一般的です。

調停手続を通じて、当事者間で合意が成立し、その合意が相当であると裁判所が認めて調停調書が作成されると、調停が成立します。調停調書は確定した審判と同一の効力を有するため、これにより遺産の名義変更を行うことが可能となります。また、裁判所は、わずかな意見の食い違い等で遺産分割調停があと一歩のところで成立しない場合等には、調停に変わる審判を下すことがあります。この審判は、告知を受けた日から2週間以内に当事者が異議を申し立てなければ、効力が確定します。

一方、当事者間で合意が成立する見込みがない場合、裁判所は調停を不成立として終了させ、審判手続に移行します。審判手続では、裁判所が、遺産の種類・性質その他一切の事情を考慮して、遺産分割方法を決定する審判を下すことになります。

Q 遺産分割調停の解決までどのくらいの時間がかかるでしょうか。

A 2020年度に終結した遺産分割事件は1万1303件ですが、このうち、調停成立により解決したものが4917件(44%)、調停に代わる審判により解決したものが3150件(28%)、認容審判により解決したものが929件(8%)となっており、8割が解決に至っています。

解決までの審理期間は、6カ月以内が2346件(26%)、6カ月超~1年以内が3118件(35%)、1年超~2年以内が2595件(29%)、2年超が937件(10%)となっています。

なお、遺産分割調停については、相続人調査や遺産調査が容易でないことや、親族間で長期間争うことになる点で当事者の負担が大きいことから、統計上、8割以上の事件で弁護士への依頼がなされています。加えて、同胞の相続については、準拠法や身分関係資料の収集などで通常とは異なる難しさがありますので、是非センターにご相談下さい。

(金哲敏:弁護士、NPO法人同胞法律・生活センター副所長)

Facebook にシェア
LINEで送る