安田菜津紀さんへの差別投稿めぐる損害賠償訴訟/東京地裁で初弁論、被告は欠席


紛れもない差別の問題、判決で明確化を

東京地裁=東京都千代田区

フォトジャーナリストの安田菜津紀さん(34)が、在日同胞2世である亡父に関する記事の掲載後、インターネット上で事実に基づかない誹謗中傷の投稿により人格権を侵害されたなどとして、匿名の投稿者たちに195万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が19日、東京地裁(桃崎剛裁判長)であった。被告は欠席したが、請求棄却を求めている。

訴状によると、2020年12月13日、安田さんは、自身が副代表理事を務めるNPOメディア「Dialogue for People」に「もうひとつの『遺書』、外国人登録原票」と題した記事を掲載。該当記事は、朝鮮半島生まれの祖父と、安田さんが中学2年のときに他界した在日同胞2世の父など家族のルーツをたどったもので、同日これについて紹介するTwitter投稿をしたところ、それへの反応として、①「密入国では?犯罪ですよね?逃げずに返信しなさい。」(2020年12月13日)、②「在日特権とかチョン共が日本に何をしてきたとか学んだことあるか? 嫌韓流、今こそ韓国に謝ろう、反日韓国人撃退マニュアルとか読んでみろ チョン共が何をして、なぜ日本人から嫌われてるかがよく分かるわい お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」(2020年12月21日)という内容のコメントが投稿された。

安田さん側は、①の投稿が、父親の「名誉を棄損し、原告の敬愛追慕の情を侵害する不法行為」であり、ヘイトスピーチ解消法が定める「不当な差別的言動」だと訴え、また②の投稿に対しては、朝鮮半島にルーツを持つ人々全体への侮辱的な表現であり、同じく「不当な差別的言動」に該当する違法行為だとして、昨年12月8日に同地裁へ訴状を提出。損害賠償を求める民事裁判を起こした。

19日、東京地裁では、2つの投稿のうち①の投稿に関する初弁論が開かれた。

この日、意見陳述に立った安田さんは「記事には大きな反響があり、あたたかな言葉をかけてくれた方もいる一方で、差別を上塗りするような言葉を吐きかけてくる書き込みもあった。私はそれを『仕方がない』では終わらせたくはない」と、裁判を起こした理由について言及。また、差別的な言葉を羅列した①の投稿内容に対し、「私の祖父母や父たちが、亡くなってもなお、差別され、尊厳を踏みにじられるのかという強い憤りが沸き上がる。同時に、自分のルーツによっていつまでも、排除の対象として見られることに、底知れない恐怖を抱かずにはいられない」として、裁判所に対し、差別の問題であることを明確化した判決を出すよう強く求めた。

昨年12月8日の提訴後に会見する安田菜津紀さん

一方、被告側は、①の投稿について、これまでに開示された発信者情報の主ではない、そのパートナーが投稿したものであると主張しており、これを受け、原告側では本件について一人を追加提訴している。(今般の訴訟に先立ち、差別投稿を行った発信者情報の開示を求める裁判が行われた。同裁判の判決は、投稿は誹謗中傷にとどまらない「差別」であり、人格権侵害であると認定した)

また安田さんの代理人によると、被告側は投稿について「深く反省」しており、和解案を提出する意向を示しているという。

弁論後、囲み取材に応じた安田さんは、「反省の意思があるのであれば、内容証明をこちらが送った時点で、書き込みの主体がだれであるのかを伝えてくるはずだが、その(投稿者が別という)事実は提訴後に伝えてきた。深く反省しているといっても信用できるものではなく、中身のない謝罪は本質ではない」と訴えた。

昨年12月8日の提訴後に行われた記者会見のようす

代理人の神原元弁護士は、「投稿者側は『密入国では?』という言葉が差別だといわれてもピンとこないし、『単に犯罪だと指摘しているだけ』だとなりかねないが、歴史的な文脈で差別か否かを判断すべき」と強調した。

また、師岡康子弁護士は「解消法の成立以降、法的根拠ができたことで、裁判所が差別かどうかをこれまでよりは認定するようになった。しかし包括的な差別禁止法がないため、不当行為だと認められても、差別とは認められないケースが少なくない」と指摘しながら、今回の訴訟を通じて、差別だと認定する判決を引き出すことで、そのハードルを越えたいと語った。

次回期日は2月9日。双方によるウェブ会議で運営されるため、非公開で行われる。

一方、原告側が同時提訴した②の投稿についても、来月初旬に第1回口頭弁論が開かれる予定だ。

(韓賢珠)