米国の軍備増強、「傍観するのは愚かで危険なこと」
2021年12月11日 10:02 対外・国際朝鮮の国防力強化と地域の軍事バランス
近年、朝鮮の国防政策に関する報告や演説に頻繁に登場する語彙がある。「軍事バランス」だ。
「…今、我々が国防力強化において、すでに成し遂げた成果に満足し、発展の途上で一瞬でも歩みを止めて一息つくならば、地域の軍事バランスが日々危うくなり、我が国はさらに深い安全不安と脅威的な状況に直面するかもしれない」(金正恩総書記が国防発展展覧会開幕式で行った記念演説2012.10.11)
兵器の発展と戦争の変化
朝鮮の国防政策の真髄は、「自力で国家と人民を守ること」(金正恩総書記)であり、現在、開発生産されている戦略戦術兵器システムも戦争を防止するための力として規定されている。自国の利益領域を世界規模に広げる国が覇権戦略の手段として使う軍事力とは性格が異なる。
米国の軍司令官は、常に世界各地で自らの圧倒的な火力と最先端兵器を投入する戦争の可能性を検証している。武力衝突が起きないのは、覇権国家の良心などではなく、その地域の軍事バランスが米国の軍事的冒険を許すほど有利に傾いてはいないと判断したに過ぎない。
朝鮮は歴史的経験を通じて、相応の自衛力を持たなければ、外部の軍事的脅威によって自主権を踏みにじられ、亡国の憂き目にあうことを知っている。
そして、1950年代の朝鮮戦争に始まった米国との交戦関係はいまだ終わっていない。今年1月の朝鮮労働党第8回大会でも言明されたように、「自国をねらった敵の先端兵器が増強されていることを知りながら、自国の力を育成せず、大平無事でいることほど愚かで危険なことはない」(金正恩総書記の報告)。
軍事技術と兵器の発展により、軍事作戦の様相と地域ごとの国家安全保障の環境が変わる。朝鮮を取り巻く軍事的環境も1950年代の戦争当時とは異なる。
大量破壊及び大量殺傷戦の様相は、超精密誘導兵器の開発により遠距離から敵の中心を直接攻撃する「遠距離精密打撃戦」の様相に転換した。1990年代初めの湾岸戦争、2000年代に入って「反テロ戦」の名目で強行されたアフガニスタン戦争、イラク戦争は新たな軍事技術と兵器の試験場であった。すべて米国が起こした戦争だ。
大国間の軍拡競争
2010年代に入り、米国は「第3次相殺戦略」を提唱して、既存の軍事力強化の方向を見直し、新たな戦争様相に合致する先端兵器開発を進めた。
「相殺戦略」の概念が初めて登場したのは1950年代。ソ連の軍事力を制圧するために核兵器と長距離爆撃機、大陸間弾道ミサイルなど戦略兵器開発に投資を集中した。 70年代の「第2次相殺戦略」では、早期警戒管制機やステルス爆撃機などを開発した。
「第三次相殺戦略」は中国とロシアを対象としている。朝鮮の周辺国だ。米国が公開した開発計画には、空中の無人機、水中の無人潜水艦、敵の戦闘管理ネットワークを無力化する陸上の最先端兵器システムなどがある。
覇権国家の武力増強は、その対象となった国々の武力増強を促し、これら大国間の軍拡競争は必然的に朝鮮半島にも影響を及ぼす。北東アジアの中心に位置する朝鮮半島は、対国の利害関係が交錯し、有名無実化した停戦体制により戦争の火種がくすぶり続ける地域だ。
人民軍の先端化・精鋭化
対北侵攻のシナリオに基づく米南合同軍事演習は今も強行されており、米国産の新型攻撃兵器搬入によって南朝鮮軍の戦闘力が向上している。
一方、バイデン政権発足後、米中対立の構図はさらに激化している。米国が台湾海峡で強行する「航行の自由」作戦には同盟国の軍艦が動員され、南朝鮮に駐留する米軍兵力と軍事基地も対中国圧迫に利用されている。台湾周辺に集結した武力が、有事の際に朝鮮半島の軍事作戦に投入される可能性も十分に想定される。
米国主導による軍事政治的な環境変化は、武力衝突のリスクをはらんでいる。それは「戦争の盾・平和の堡塁」を自負する朝鮮がより強力な実体に変化すべき切迫性を示すもので、米国の武力増強に対抗し、軍事バランスの破壊を防ぐことが急務となる。
朝鮮労働党第8回大会で示された「国防科学発展及び兵器システム開発5カ年計画」(2021~25年)も、今そこにある懸念と脅威を安定的に治める力と手段を備えるためのものだ。
労働党は、変化する国家安全保障環境に合わせて朝鮮人民軍を在来式構造から先端化・精鋭化された軍隊に発展させることを国防科学部門の基本課題としている。兵器の知能化・精密化・無人化・高性能化・軽量化の実現が軍需産業の目標として定められ、研究開発が進んでいる。
(金志永)
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