“台湾海峡と朝鮮半島情勢は無関係ではない” / 米国の覇権戦略と朝鮮の自衛力強化
2021年11月16日 06:48 対外・国際インド太平洋情勢が不安定化する要因
「北朝鮮と大量破壊武器は我々が長い間直面してきた伝統的な脅威であり、中国は皆が最も大きい脅威として挙げおり、前例がない脅威、追撃する脅威である」。(アブリル・ヘインズ米国家情報長官)
《たぶん中国が6年以内に台湾に対して無力行使する可能性がある」。(フィリップ・デービッドソン米インド太平洋軍司令官)
3年前、ハワイに司令部を置く「太平洋軍」を「インド太平洋軍」に改称し、この地域で軍備増強を推し進めてきた米国は、いま朝鮮と中国の「軍事的脅威」を鼓吹し、両国をねらった全方位的な武力配備を急いでいる。
大国の没落と覇権維持戦略
自衛的な国防力をたゆまなく発展させながら、大国の利害が絡む北東アジアの中心で平和の砦を守る朝鮮としては、最大の警戒心を払って注視しなければならない軍事政治的環境が醸成されている。
2006年、朝鮮が初の核実験を行い、北東アジアの核不均衡状態に終止符を打った時から10余年が過ぎた。 この間に世界の勢力均衡は急速に変化し、それによって各国の安保環境も変わった。
米国のオバマ政権が世界戦略の中心をアジア太平洋地域に移す「再均衡戦略(rebalance to Asia-Pacific strategy)」を標榜したのが10年前の2011年だ。
第2次世界大戦が終わった時、米国は核武力を含む強大なパワーを背景にして国際社会で唯一無二の決定権を行使しながら覇権戦略を追求したが、冷戦終結と中東地域での無謀な「反テロ戦争」を経て「唯一の超大国」の衰退没落は隠しようのない現実となった。
それは米国と力で競いある国々が存在し、伝統的な欧州大西洋地域に替わり世界の地政学的中心となったアジア太平洋地域で特に著しかった。 オバマ時代の「再均衡戦略」はこの地域での覇権戦略遂行が難しくなった現実に対する米国の不満と焦燥感の産物であった。
現在、米国は世界の多くの国と地域に軍事基地を置き膨大な兵力を駐屯させている。 その大部分の武力が北太平洋からグアム、日本、南朝鮮を経てインド洋と紅海にいたる広大なアジア太平洋地域に集結している。
トランプ政権では「インド太平洋戦略(Indo-Pacific Strategy)」が推進され、米太平洋軍の名称も変わった。 「再均衡戦略」と名称は違うが、この地域における米国の競争相手である中国を牽制するのが主な目的であるという点では違いがない。 そして現在のバイデン政権は、前任者たちの政策基調を継承するだけでなく「クアッド(QUAD)」(米国、日本、オーストラリア、インドの協力体制)、「オーカス(AUKUS)」(米国、イギリス、オーストラリアの軍事同盟)を打ち出し、米中対立の構図を一段と激化させている。
米南合同演習と「航行の自由」作戦
ここで看過できないのは、この間に朝鮮半島周辺における米軍の動きが目に見えて攻勢的に変化していることだ。
「北朝鮮のミサイル脅威」を口実に全地球的なミサイル防衛システムの構築を推進し周辺大国の戦略武力の無力化をねらう一方で、朝鮮の重要施設に対する先制打撃を基本とする「作戦計画5015」を稼働させ、米南合同軍事演習を通じてその実戦可能性を随時検証してきた。
米国が朝鮮半島周辺に核空母を始めとする核戦略装備を相次いで投入し戦争危機を煽った2017年、朝鮮はICBM試射の成功によって国家核武力を完成させ、翌年には朝米首脳会談で「新たな朝米関係の樹立」と「朝鮮半島における平和体制構築のための共同努力」が合意された。
しかし米国は3年前に締結された首脳合意を履行しなかった。 朝米の交戦状態と朝鮮半島をめぐる軍事対決構図は今もそのまま維持されている。
バイデン政権は、北侵戦争シナリオに沿った米南合同軍事演習を中断せず強行している。 また米国の後援により最新鋭の攻撃型兵器が搬入され南朝鮮軍の戦闘力が更新されている。
一方、「航行の自由」作戦によって米海軍の軍艦を台湾海峡に送り込み、ここに同盟国の軍艦まで動員して、海峡情勢の緊張を階段式に高めている。米軍の特殊部隊と海兵隊は以前から台湾に駐屯して台湾軍の訓練を行ってきた。
中国の内政に属す台湾問題に対する米国の無分別な干渉は、朝鮮半島の情勢を緊迫させ、不測の事態を招く潜在的な危険性をはらんでいる。
今年1月、バイデン政権の発足を前に駐南米軍司令官は「駐南米軍はインド太平洋司令部管下の準統合司令部として存在し、わたしも主南米軍司令官としてインド太平洋司令部の対中戦略と連携しながら任務を遂行する」と明かした。南朝鮮に駐留する米軍兵力と軍事基地が対中圧迫に利用されている事実を吐露したわけだ。 見方を変えれば、台湾周辺に集結する武力もインド太平洋司令部の指示によって、いつでも朝鮮半島における軍事作戦に投入することができると語ったに等しい。
挑発制圧のための共同戦線
朝鮮と中国は、冷戦期である1950年代、一つの塹壕の中で米国に対抗して戦い、今日も朝中友好条約によって外国勢力の侵攻に対する共同戦線の構築を確認し合っている国々だ。ここ照準を合わせ「北朝鮮脅威論」、「中国脅威論」を強弁し、覇権維持のためには軍事衝突の危険な状況もつくりだすのも厭わない米国こそ、地域不安定の最大要因である。
「いま朝鮮半島周辺の軍事的緊張から、わが国家の前につくりだされたリスクは、10年、5年前、いや3年前とも異なる…明白なことは朝鮮半島地域の情勢不安定は米国という根源のために簡単に解消されることはないということだ」
金正恩総書記が国防発展展覧会開幕式(10月11日)で行った記念演説の一節である。
このような現実の前で、朝鮮が自衛的な国防力を備えることは、外部の軍事的脅威に引きずられ、紛争を強要されることを望まない主権国家としての当然の権利だ。(金志永)