国防力を背景にした朝鮮の情勢管理術
2021年10月29日 08:08 軍事「対話にも対決にもすべて準備する国」の手腕
敵対勢力の軍備増強と同盟軍事活動により、朝鮮半島周辺には不安定な軍事的状況がつくられている-それが朝鮮の認識だ。そして、この国はたゆまなく発展する自衛的国防力を背景に、時々刻々と変化する状況に機敏に対応しながら、情勢を安定的に管理している。その手腕を探る。
戦時作戦任務遂行の準備完了
朝鮮の対外政策的立場は、党や国家の重要会議における金正恩総書記の報告、演説などを通じて表明されてきた。
今年6月15日から18日まで行われた朝鮮労働党中央委員会第8期第3次総会では、国家の尊厳と自主的な発展利益を守り、平和的環境と国家の安全を担保するためには、対話にも対決にもすべて準備ができていなければならず、特に対決には抜かりなく備えができていなければならないという立場が示された。
総会が開かれたのは、米国で新政権が発足して5カ月が過ぎた時点。金正恩総書記は、バイデン政権の対朝鮮政策の動向を分析し、総会で対米関係において堅持すべき戦略戦術的対応と活動方針を明示したという。
ところが、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が「対話にも対決にもすべて準備ができていなければならない」とする朝鮮の立場表明について「興味深いシグナル」であると発言した。これに対しては「米国はおそらく自らを慰める方に夢占いをしているようだ」、「誤った期待は自分たちをさらに大きな失望に陥れることになる」(金与正党中央委員会副部長)という反応が示された。
米国の我田引水の解釈とは異なり、朝鮮は対決には抜かりなく備えなければならないという方針を徹底的に具現している。
7月24日から27日まで、平壌では「朝鮮人民軍第1回指揮官・政治将校講習会」が開かれた。人民軍の各軍種・軍団・師団・旅団・連隊の軍事指揮官と政治将校が一堂に会するのは人民軍創建後、初めての出来事だ。
7月27日の戦勝記念日(朝鮮停戦協定締結日)に合わせて行われた講習会では、すべての軍政幹部は自らの能力、業務成果を評価される最重要基準が戦時作戦における戦闘任務を正確に遂行するための準備を万端に整えることにあると肝に銘じ、部隊の戦闘力強化に拍車をかけることが強調されたという。
中米対立による軍事的リスク
一方、7月27日には金正恩総書記と文在寅大統領の合意により、昨年6月以来、遮断状態だったすべての北南通信連絡線を再稼動する措置がとられた。
ところが8月に北への侵攻を想定した米南合同軍事演習が強行され、通信連絡線は再び断絶された。
2018年4月、北南首脳会談が開かれ、「朝鮮半島にすでに戦争はなく新たな平和の時代が開かれた」と明記した板門店宣言が発表された。その年の6月には金正恩・トランプ会談で「新たな朝米関係樹立」と「朝鮮半島に平和体制を構築するための努力」を確約した共同声明も発表された。
あれから3年、朝鮮半島周辺の軍事的緊張は日増しに高まっている。
米国と南朝鮮は「北の脅威」に対処するといいながら、戦争演習を頻繁に行っている。南朝鮮は米国からステルス戦闘機や高高度無人偵察機など先端兵器を購入する一方、「自主国防」を標榜しながら、ミサイル能力向上や潜水艦戦力の強化、戦闘機開発など多方面にわたり攻撃用軍事装備の増強を進めている。
中米対立の激化も、朝鮮半島周辺に軍事的リスクを誘引する要因となっている。
9月29日、日本の国会にあたる最高人民会議で中米対立に関する言及があった。金正恩総書記は施政演説で、今日の世界で最大のリスクは、国際平和と安定の根幹を破壊する米国と追従勢力の強権と横暴であり、米国の一方的で不公正なデカップリング・二分化の対外政策によって国際関係が「新冷戦」 構図に変化し、複雑化したことが、現在の情勢変化の主な特徴であるという分析を示した。
実際、今年に入り米国は「航行の自由」作戦で軍艦を台湾海峡に投入、情勢のエスカレーションを引き起こした。
台湾問題に対する米国の無分別な干渉は、朝鮮半島の軍事的緊張をさらに煽る危険性をはらんでいる。南に駐留する米軍兵力と軍事基地は対中国圧迫に利用されており、台湾周辺に集結する米国と追従勢力の武力も朝鮮を狙った軍事作戦に投入すること可能だ。
軍事的均衡を崩す二重基準
いま朝鮮は地域の不安定な軍事的状況を安定的に管理し、敵対勢力の軍事挑発を抑制する新たな兵器システム開発に拍車をかけている。そして地域の軍事的均衡を破壊し、情勢の不安定性とリスクをさらに高めるもう一つの要因を取り除くことに尽力している。その要因とは、国防力の発展に対する二重基準の適用だ。
朝鮮の自衛的な国防力の発展に対しては、「国連決議違反」のレッテルを貼って束縛の足かせをかけ、自分たちは「北の脅威」に対抗するという口実で軍備増強に進める二重基準を黙過すれば、地域の軍事的均衡は崩れ、誰も望まぬ禍を招きかねない。
金正恩総書記は、9月の施政演説で南朝鮮当局に対し、他方への偏見的な視点と不公正な二重的態度、敵対的観点と政策からまず撤回することを求めた。そして、「北南関係の回復と朝鮮半島の平和を望む全民族の期待に応える努力の一環」として、10月初めから北南通信連絡線を再び復元すると表明した。
10月11日、平壌で開幕した国防発展展覧会「自衛-2021」における金正恩総書記の演説にも注目すべき内容があった。
ICBM やSLBM、極超音速ミサイルなど過去5年間に開発生産された戦略戦術兵器が集結した会場で、「我々の主敵は戦争そのものであり、南朝鮮や米国といった特定の国や勢力ではない」という立場が表明された。戦争を防ぐための抑止力を強化する正常で合法的な主権行使を妨げなければ、朝鮮半島で緊張が誘発されることは決してないというシグナルが米、南に向けて送られた。
自力で国を守り、たゆまなく発展向上する強力な防衛力によっていかなる脅威と挑戦も抑え込み平和を守護するという朝鮮の立場は一貫しており、それは国防発展展覧会の演説でも貫かれた。
金正恩総書記は、平和的環境の根幹を揺るがす原因を解消し取り除き、朝鮮半島地域に堅固な平和をもたらすために全力を尽くすと述べながら、「しかし平和のための我々の対外的努力は絶対に自衛権放棄ではない」と改めて強調した。
もしも朝鮮の軍事力が脆弱ならば、攻撃の対象となり、戦火が飛び移れば、紛争の連鎖が起きかねない。
「対話にも対決にもすべて準備ができている国」が、朝鮮半島と地域の平和を担保している。それは否定しようのない事実だ。
(金志永)