短編小説「春の農村にやってきた青年」5/千世鳳
2021年10月28日 06:20 短編小説彼は、キルスがこの先、自分を大いに困らせやしないかとそんなことまで心配になってきた。
次の日から彼は、なおさらいかめしい顔つきをしてキルスにこごとを言った。最初からしっかりと手綱をひきしめておくつもりだったのである。ところがキルスはキルスで、別にいやな顔もせず、どうしたら組合から任された鍛冶屋の仕事に革新をおこして農村の機械化にプラスにできるか、また、この鼻っぱしのつよい頑固おやじの他人に接する態度をもなおすことができるか、と考えていた。つまりこの二人は、たがいに相手をなおしてやろうと腹を決めていたのである。ところでこの日、ちょうど昼休みの時に、ドックンおやじが組合きっての技術者だと信じているヤン・チベギが鍛冶屋にひょっこり姿を現した。彼は最近、神経痛で足が痛むといって仕事にも出ず、ステッキなどついて、びっこをひきひき歩いていた。事実、彼は電気や機械についての技術はもっていた。解放前からそういった方面を渡り歩き、いっときはこの村で自転車店を開業しオートバイをふっとばしたりして景気のいいこともあった。