〈特集・ヘイト解消法5年〉「キムさんの一日」/深沢潮
2021年06月03日 16:22 文化・歴史ヘイト解消法5年に際し開かれた超党派議連による集会(5月26日)の場には、朝鮮ルーツを持つ作家の深沢潮さんが招かれた。この日の報告で深沢さんは、在日朝鮮人を取り巻くヘイトスピーチの現状と、被差別当事者としての思いを「キムさんの一日」という作品に込めて訴えた。2021年現在、在日朝鮮人に起こりうる出来事を「一日」に凝縮した同作品を紹介する。
明け方、キムさんは地震で目が覚めました。けっこう揺れました。最近は地震が多いです。皆さんは、地震が起きたとき、真っ先になにを考えますか。どれくらいの震度か、被害はあるかないか、津波が起きるかどうか、でしょうか。けれども、キムさんは違います。また、「朝鮮人が井戸に毒をまいた」といった類のデマがネットで流されるのではないか、と不安でたまりません。在日朝鮮人に対するヘイトスピーチを目にしたくなくて、インターネットやSNSは極力目にしないようにしているキムさんですが、地震の情報を集めようと、スマートフォンを手にします。
案の定、ネットには、使い古された「朝鮮人が井戸に毒をまいた」というデマが載っていました。またキムさんは、災害時、避難所に行ったとき、自分が朝鮮人という理由で追い出されたり、なにか危害を与えられたり、ともすれば殺されるかもしれないなどと想像すると、恐ろしくて、なかなか眠りにつくことができません。
そこまでのことが起きなくても、なにかなくなったなどのトラブルがあったら、朝鮮人であるがゆえに自分が盗んだと疑われるのではないか、とも危惧します。それは犯罪をするという前提で見られるからです。窃盗団のデマも根強くあります。
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眠りが浅かったためか、いつもより起床時間が遅くなったキムさんは、慌てて子どもを送り出した後、テレビを観ながら食事をします。