京都初級、保健室の正規運営開始/養護教諭の常勤採用に伴い
2021年05月07日 09:00 民族教育民族教育の一端担う学校保健
今年4月から、常勤講師として養護教諭の資格を持つ同胞を迎え入れた京都初級。同校の文峯秀校長は、その意義について次のように語った。
「教科担当の教諭がいるのと同じように、学校保健全般を担当する養護教諭がいる。それぞれ担当が異なるだけで、学校教育の現場には必要な存在だ」
排除という前提
現在、幼稚園から大学まで、日本各地にある学校教育の現場は、そのほとんどが学校教育法第1条で掲げられた「学校」、いわゆる「一条校」に値する。一方、朝鮮学校やインターナショナルスクールなど多くの外国人学校は「各種学校」という法的地位によって「一般的」な学校生活で見られる光景や「当然」備わっているものがそこにはない。その一つが、昨今、急速に需要の高まりをみせる保健室だ。
「学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資すること」を目的に、学校における保健、安全管理について定めた学校保健安全法では、国および地方公共団体の責務について、以下のように示す。「各学校において保健及び安全に係る取組が確実かつ効果的に実施されるようにするため、学校における保健及び安全に関する最新の知見及び事例を踏まえつつ、財政上の措置その他の必要な施策を講ずるものとする」。そして、同法第7条では「学校には、健康診断、健康相談、保健指導、救急処置その他の保健に関する 措置を行うため、保健室を設けるものとする」としながら、保健室運営もまた、国と地方自治体の支援のもとで行うことが法律上定められている。しかし、この対象はあくまで「一条校」のみのため、それに類する教育を施し、またその教育が「各種学校」認可という形で認められていても、朝鮮学校をはじめとする外国人学校には適用されていない。よって現在まで、朝鮮学校など多くの外国人学校は、学校保健の環境を自ら整えるしかない状況に置かれているのである。
このような朝鮮学校の法的地位とそれを前提とした教育環境を考えれば、学校保健を強化し、常勤の養護教諭を採用するという今回の流れがいかに画期的で意味のあるものかがわかるだろう。またそれは、朝鮮学校卒業生のうち、「保健室を知らない」世代がその多くを占めるという事実からも容易に伺うことができる。
“教育機関の一部”
近年、各地の朝鮮学校では保健授業や健康相談の実施、保健室の設置など、十分でない公的保障のなかでも医協や人権協会、ボランティアなどとの連携・協力のもと学校保健の強化を図ってきた。
特に京都府下の朝鮮学校では、2009年にあった在特会による京都第1初級(当時)への襲撃事件を機に「子どもたちの心身の健全な成長のため学校に保健室が必要なのではないか」「成長に伴い生じる体の変化や、支援が必要な子どもたちに対し専門的に対応できる要員が必要だ」といった声が相次いだ。そして府下の学校に先立ち2015年から、京都初級で日本人ボランティアを中心とした非正規での保健室運営が始まることになった。
以降、看護師、養護教諭などそれぞれ資格を持つボランティアのメンバーが交代でスタッフを務めながら、昨年まで同校の保健室は運営されてきた。
「今回の流れが保健室の大切さを認識するきっかけになれば」と話すのは、開設当初から、同校の保健室業務に携わる佐藤友子さん(元高校養護教諭)。佐藤さんが、保健室スタッフとして同校へ携わるようになったのは2015年10月のこと。ローカル番組を通じ、朝鮮学校で保健室が開設されたことを知った佐藤さんは「当初、非正規での運営と聞き、毎日運営しないと意味がないと思いました。けどよくよく考えれば、朝鮮学校は学校保健安全法が適用されていなかったので、関係者の方々の間でも学校保健に関する認識や前提がそもそもなかった」と振り返る。