朝鮮の公演に触れて/秋田信博
2021年02月23日 09:00 文化・歴史鮮烈な衣装、卓越した舞台
朝鮮労働党第8回大会を祝う行事に参席した金正恩総書記を大黒柱、領袖に迎え、祝典の椅子を占める国家の首級、最重要人物が舞台一杯に理路整然と満面に笑みを帯びて拍手する冒頭の場面に魅入りながら、二時間半あまりに及ぶ催し物を鑑賞する機会に恵まれた。華麗、絢爛(けんらん)、躍動、色彩の氾濫・洪水、乱舞が舞台に溢れ、観客と渾然一体となった雰囲気をかもす。舞踊の血が才覚として与えられている倍達(ペダル)民族の妙技に、固唾を飲むほど鑑賞の時間を有益に費やした。
演目に触れる前に、刻一刻変容する時間帯に織られた出し物の鮮烈な衣装を機微に捉えた臨場感、醍醐味こそ吟味し尽くせない。主催者の腕の冴え、卓越した舞台を築き披露する演出家の存在も無視するわけにはいかなかった。舞台道具に肩を並べ、それを動画として観客の目に届ける数多のシーンに目を見張りながら、緞帳、舞台照明、小道具、音響設備、照明、楽屋裏で興奮気味に待機する演者たちの扮装、気骨、情熱などを想像すると、開幕の高揚感が如実に、端的に伝わってくる。
冒頭、鮮やかな朱色のチマをまとった結髪の女性がマイクを握り、顔面をいくぶんか紅潮させながら左手に携えた文面を読み上げ、場内に集まったひとびとに諭すように記念行事の嚆矢(ルビ:こうし)としての責務を果たす。最後の言葉を述べ終わった瞬間、無言の感銘と挨拶で応答する拍手が隅々にまで浸透した。
宴は音楽が伴わなければ、わびしく、寂しく、無味乾燥な印象を色濃くするのだが、公演では管弦楽作品を演奏する際の基本となる、二管編成・三管編成を超えた管楽器が奏楽され、ファンファーレの高く華やかに飛翔する光の屈折、輝きを彷彿させる音色で鼓膜を響かせたのだった。オーケストラ団員を統率する指揮者は、台上で奏者に睨みを効かせ、指揮棒をたくみに紡ぐようにリズムを刻む。弦楽器を扱う女性の一群はドレスの赤朱色によって幻惑するような姿を見せ、弓の動かし方につれて全身全霊で楽曲に挑戦する。硬い感じが一掃できない男性奏者の服装は、正装ではあるのだろうが軍帽を被っているようにも感じ、上下の衣装からは兵隊の格好が想起された。合唱団はチマ・チョゴリの女性たちを前に、背後には蝶ネクタイを首元に飾ったタキシード姿の男性たちが横に数列を成して目の前の伴奏に煽られるかのよう。かれらは合唱のうねり、大きな波を声楽の奥深い肉声で表す。合唱に加え、男性、女性歌手による独唱、二重唱、三重唱を披露することで熱気は高まる一方だった。