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〈続・歴史×状況×言葉・朝鮮植民地支配と日本文学 29〉「実感」の政治と歴史否認の土壌/後藤明生④

2021年02月13日 08:00 寄稿

「引揚小説三部作『夢かたり』『行き帰り』『嘘のような日常』」(つかだま書房、2018年4月)

後藤明生は少年時代の朝鮮体験、引揚げ体験に基づき、「一通の長い母親からの手紙」(1970)、「挟み撃ち」(73)を書いた後、朝鮮での記憶と現在とを往復する連作を続け、それらは連作小説集「夢かたり」(75)、「生き帰り」(78)、「嘘のような日常」(79)としてそれぞれ引き続き刊行された。後者の三作は「引揚小説三部作」として2018年に再刊されている。

これらの「三部作」では前の二作に比べ、朝鮮時代の出来事や人物、地理や風物、情景などより多くの詳しい記憶の断片たちが、引揚者たちとの再会と思い出話によりつなぎ合わされるが、おしなべて支配者側としての自覚や責任意識は見えず、なつかしい「同郷」出身者同士の思い出話としてや、敗戦後の混乱と苦労についての個人的体験談で終始している。

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