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〈続・歴史×状況×言葉・朝鮮植民地支配と日本文学 28〉「実感」に閉じこもる個人の「記憶」/後藤明生③

2020年12月31日 06:28 寄稿

「挟み撃ち デラックス解説版」(つかだま書房、2019年刊)

後藤明生の「挟み撃ち」(1973)は、中学一年のとき朝鮮北部で敗戦を迎えた主人公赤木が、帰国後数十年を経て、ロシアの作家ゴーゴリの小説「外套」の内容を作中でなぞりつつ、かつて身に着けた旧陸軍の外套の行方を求め昔の下宿先などを訪ね歩く話だ。赤木は、前回見た「一通の長い母親の手紙」(1970)の、記憶力の弱さ、「健忘症」を自認しつつ母の「記憶」と格闘する主人公を継承しており、いずれも後藤自身の実体験からなる人物だ。

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