〈続・歴史×状況×言葉・朝鮮植民地支配と日本文学 22〉疎外の自覚、そして加害の自覚を/安部公房③
2020年05月18日 10:18 寄稿「けものたちは故郷をめざす」(1957)のラスト、敗戦後中国から引揚げ日本上陸を目前にしながらも、朝鮮人高石塔とともに密輸船の船倉に監禁された主人公久三は、脳裏で次のようにつぶやく。「もしかすると、日本なんて、どこにもないのかもしれないな……おれが歩くと、荒野も一緒に歩きだす。日本はどんどん逃げていってしまうのだ……」。安部公房はそのようにして、「本物の日本人」ではない、「外地」・植民地出身者を拒む「戦後」日本の姿をあぶりだした。ひるがえってこんにち、新型コロナ禍のもたらす事態のさなかで、あくまでも都合の悪い「外部」、他者、非日本を拒絶、遮断、排撃しながらいっそう自閉していくこの国の内部では、ウイルスそのものよりも恐ろしい病理、矛盾、腐敗がどんどん噴出している。ナルシスティックに理想化され自己完結する「美しい国」など「どこにもない」のだ。いくら虚像を追い求めても、「日本はどんどん逃げていってしまうのだ」。