〈D.P.R.K〜暮らしの今 11〉美林乗馬クラブを訪ねて
2020年02月01日 10:00 共和国市民に根付く乗馬文化
【平壌発=丁用根】平壌市郊外に美林乗馬クラブがオープンしてから6年以上が経った。この間、平壌では乗馬文化が身近なものとしてすっかり定着し、多くの市民らが乗馬を楽しんでいる。1月初旬、クラブを訪ねた。
馬への「情」と向上心
筆者がクラブを訪れたのはとある平日、天候はあいにくの雨だった。
雨天のため野外訓練場は使用できなかったが、それでも室内訓練場では午前中の早い時間から多くの市民らが乗馬を楽しんでいた。巧みに馬を操る青年、若いカップルや年配者、ポニーにまたがる小さい子どもの姿も見られた。
乗馬クラブ案内員のリ・ジノクさんによると、平日、休日問わず多くの利用者たちで盛況を博しており、結婚記念に晴れ着姿で写真を撮りに訪れる新婚夫婦も多いという。
「現在、クラブ内では120頭ほどの馬を飼育しています。主な品種はオルロフ・トロッタ―、ロシア原産で人懐こい性格が特徴の馬です」(リさん)
今回、筆者は7歳の牝馬「イスル」に乗らせてもらい、20代の女性指導員の手ほどきを受けながら初歩的な乗馬技術を教わった。
馬の歩く速度は常歩・速歩・駆歩・襲歩の4段階で区分されるが、筆者が体験したのは常歩・速歩の2種類。2拍子のリズムで馬と呼吸を合わせて立って座るを繰り返す速歩はなかなかしんどい運動だ。全身の筋肉を使い、息も上がる。5分もすると全身から汗が噴き出した。
速歩にも慣れて、少し欲を出して駆歩に挑戦したいと切り出すと「焦ってはダメです。もっと訓練しないと」と指導員。いわく、駆歩や襲歩は「走る」運動でスピードが速く、落馬の危険も高いのでかなりの経験を積まなければいけないのだとか。
指導員との会話を楽しみつつ、あっという間に30分の体験が終了。丁寧でわかりやすい指導のおかげで初心者でも安心して乗馬を楽しむことができた。
最後に、「イスル」に受付で購入したニンジンをあげて別れのあいさつ。澄んだ瞳を見つめると、不思議と情がわいた。指導員は「自分のお気に入りの馬を見つけ、その子に何度も会いに来る利用者も多いですよ」とはにかんだ。
次に訪れるときはまた「イスル」に乗り、駆歩に挑戦しよう―お気に入りの馬への「情」と自然と沸き立つ向上心が、市民らが乗馬に「ハマる」理由のひとつかもしれない。
誰でも楽しめる大衆スポーツ
日本で乗馬というと一般的に「上流階級の趣味」というイメージだが、朝鮮での乗馬は一般市民らが楽しむ「大衆スポーツ」として位置づけられている。オープン前、何度も現地を視察に訪れた金正恩委員長は、乗馬クラブを体育人たちの専門的な訓練施設ではなく一般の人たちのための施設にしなければならないと指導した。
誰でも気軽に楽しめ、健康促進にもうってつけの乗馬は、美林乗馬クラブのオープンとともに市民の間で瞬く間にブームに。現地メディアによると、13年から14年までの1年間でおよそ18万5千人がクラブを訪れたという。
一般市民も親しみやすい料金設定、平壌市の中心から乗馬クラブまでをつなぐシャトルバスの運行なども乗馬文化定着の一因だ。また、現在でも現地の新聞やテレビなどのメディアでも乗馬に関するトピックが頻繁に扱われていることからも、乗馬への関心の高さがうかがえる。
老若男女問わず幅広い世代が楽しめる乗馬運動。朝鮮では特に学生ら若者たちに人気だ。
美林乗馬クラブでは14年から青少年課外乗馬講習が運営されている。12~15歳までの学生を対象に4月から10月までの6カ月間、乗馬訓練や講義を受け乗馬技術を基礎から学ぶことができる。2年間の講習を受け卒業した学生には「騎馬手」の資格が与えられる。
乗馬文化の普及に伴い2017年からは朝鮮馬術協会主催の乗馬愛好家競技が春季、秋季で年に2回行われている。参加するのは学生や企業所の一般市民たちで、幼稚園児からお年寄りまで幅広い世代の愛好家たちが出場している。日頃のトレーニングの成果を披露できる場が設けられたことにより、市民ら乗馬熱はいっそう高まっている。
朝鮮では先日オープンして話題となった陽徳温泉文化休養地(平安南道)にも数々の娯楽施設とともに乗馬公園や調馬場が設けられた。平壌市内だけではなく、地方の最新スポットにも乗馬を楽しめる環境が整えられたことにより、国内の乗馬文化がいっそう広がりを見せることが予想される。
(朝鮮新報)