〈本の紹介〉「食の日韓論」八田靖史著/冷麵の「真実」に驚愕する
2016年10月11日 09:49 文化・歴史著者は16~17世紀に朝鮮半島に伝来した唐辛子の歴史に関心を持ち、その定着と過程に関する大学の卒論資料を集めるために南朝鮮に短期留学した。そのことをきっかけにコリアン・フード・コラムニストになった。
「食の日韓論」は朝鮮半島の南で1200ヵ所を食べ歩きした著者が、昨年、念願の訪朝をはたし、朝鮮の食事情ー冷麺の本場について取材した体験をもとに、今こそ食を通した日韓・日朝の交流が必要だとひもとく。政治・経済・歴史・嫌韓反日を乗り越えるもの、人間の原点は「食」の力だと言い切る。
食に日常の視点は欠かせない。身近なスーパーでの比較は面白い。日本の韓国家庭料理関連の食品と南での日本関連の食品を照らし合わせると、南のスーパーでは日本語のパッケージがそのまま並び、日本のスーパーでは日本ナイズされた商品が見られる。
キムチの消費は一時期よりも減少したものの「便利な小分けパック」「国産白菜使用」「アレンジレシピの誘惑」など日本企業の老獪なテクニックが使われ、南の製品が後塵を拝しているとか。
何よりも印象深かったのは、百聞は一見にしかず、「初めての北朝鮮で打ち砕かれた食の常識」についてである。日本の報道とは違って、「予想外にフレンドリーだった北朝鮮」と語り、冷麺の聖地「玉流館」を訪問し、大同江ビールのコクに酔いしれ、高麗ホテルの冷麺に頷き、想像とはかけ離れた咸興冷麺の真実に驚愕する。
筆者は冷麺をテーマとし、南北で食べた経験があるが、咸興冷麺についていうならば、ピビム麺形式の南とムルレンミョンが主流の北とでは違いが顕著だ。冷麵の歴史は知るほどに奥深いのである。
著者がいう「冷麵の本場を訪ねたところ韓国や日本で常識とされているところがまったくアテにならなかった」というくだりは言い得て妙だ。日本人が朝鮮に対してイメージする「拉致、核、ミサイル…」がすべてではないとし、「冷麺がとっても美味しい」というプラスの発想も必要であり、相手の背景を知るべきだと民間レベルの相互理解を強調する。同感である。(金才順 フードライター)