〈本の紹介〉永遠の不服従のために/辺見庸アンソロジー
2016年07月29日 10:04 文化・歴史醜い風景の根源を撃つ
戦争、テロ、強者への服従―世界中で荒れ狂う米国のとてつもない強大な暴力と追従する日本の政治。その強大な力に対して作家・辺見庸氏の腹の底から噴き上げてくる激しい憤りをぶつけたのが「抵抗3部作」と呼ばれる「永遠の不服従のために」「いま、抗暴のときに」、そして「抵抗論―国家からの自由へ」。本書はそれから10余年の時を経て3部作に加え、新たに序文とあとがきを書き下ろし収録して「辺見庸アンソロジー」として刊行された。
当時、著者は「これをこのままほうっておくと、やがてはこうなるであろう」と確信し危懼(きく)していた心象をときどきにしたためたもののアンソロジーだと記していたが、その後の状況を見ると、著者の予感は的中。「大した摩擦もなく、そうなってしまった」。今新たに読んでも現下の世界の景色を、根源的な言葉でとらえる全くタイムリーな書である。
9.11テロ、アフガン報復爆撃、侵攻、イラクへの侵略戦争、そして、自衛隊派兵、朝鮮半島情勢…。この壮大な反動と非道。その暗い闇に辺見氏は「単独者」として、身体と精神を丸ごと投げ打って闘いを挑み、そして病に倒れた。本書にはその闘いを支えつづけた激しい抵抗の精神が満ち溢れている。
日本中にあふれる「中立」を標榜しての戦争加担の言説、ジャーナリズムの目を覆うばかりの堕落。それを抉り出し、白日の下にさらす辺見さんの鋭い視点。
不条理に根源的な「NO!」を突き付ける怒りとその表現がいまこそ、求められている。表層風景にのみこまれて、ジャーナリズムとしての平和的論理性を欠落させ、歴史的視点を失っている日本のメディアの狂気を徹底的に炙り出しながら、辺見さんはさらに怒ってやまない。「怒りはひとり支配権力にむかうだけのものではない。それを支えるともなく支えつづける顔のない民衆と個人のいないメディア、暴力団と本質的に変わるところのない政党と政治、ほとほと見さげはてるほかない…」と。まさに、今回の参院選で示された「民意」によって、日本は戦後71年を経て、いよいよ「改憲」に着手にすることになった。
侵略戦争の計り知れない惨禍をアジアの民衆に与え、朝鮮半島を植民地にして何世代にも及ぶ加害を及ぼし続けて、反省どころか居直り強盗のごとく美化するまでに至った日本。辺見さんは言う。「いまも昔も、時代と和解的な評論家や学者たちは、みずからの変節にまったく臆するということがない」と。そんな醜い風景が噴出する今の日本にしっかり眼を凝らし、撃つ一冊。
(朴日粉)