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世界全体が「ゼニ」の力で動いていいのか/佐藤藤三郎

2016年04月18日 09:00 文化・歴史

゛新たな信頼関係を築こうよ゛

東北の寒村で思うこと

私は東北の寒村に生まれ育ち今も住んでいる。昭和の市町村合併で上山(かみのやま)市となったが、それまでは山元村といい人口およそ二千、戸数が300余という小さな村だった。

それが2015年10月の国勢調査によると人口232、世帯数121となっている。私はこの数字を目にしてぎよっとした。過疎とか高齢化社会といったことばは目と耳が痛くなるほど見聞していたが「まさかこれほどまでに」とは思っていなかった。

筆者の住む山形県上山市狸森の田植えの風景

筆者の住む山形県上山市狸森の田植えの風景

しかし、それは他人事ではなくわが家自体がそのようになっているのだ。私が子どものころ、わが家の家族は9人だった。それがいま80歳の自分と77歳の妻との2人だけの家族である。そして向こう3軒両隣もそのようになっている。まずは安倍首相、このような山村の実態をご存知なのかといいたい。

政界は財界のお先棒となって米国と仲よしになって金もうけのことに熱中している。こうした状況を見ていると日本というこの国が米国という国に巻き込まれ、自立のできない、私のムラのようになるぞ、と思えてくる。

正直のところ私は朝鮮はなぜ、軍事強化にあんなに力を入れているのか、それの内容をくわしくは分からない。その一方、日本の安保や改憲の動向を思うと、私の孫たちが米国軍の最前線に立たされ、海外の諸国に攻め入る羽目になる危機感を覚える。つまりそれはこの国の犠牲を越え、独自性の喪失に連なるものだ。そのように考えると、朝鮮の昨今の動きは自国の独立のための懸命なたたかいであるとものと受け止められる。

仲間たちとたけのこ取り

仲間たちとたけのこ取り

TPPについては「大筋合意」と報じられている。そのことについての国会での政府の答弁を見聞していると腹立たしくなる。そのわけを端的にいえば関税を撤廃すれば自動車の輸出が増える。反面食料の輸入が多くなるが、それのプラス、マイナスを見ていくと農業を犠牲にしても国全体の収益がプラスになる、という。いたって単純な経済合理主義の思考だ。それには正義もないし、政治もない「ゼニ」だけの思いである。

私は農業高校のときに社会科を学んだある先生のいわれたことばが60年を経た今も身にしみている。その先生曰く「政治というのは田や畑の作物を隔てなく育てることだ」ということだ。つまり田にも畑にも深いところもあれば、浅いところがある。痩せているところもあるし肥えている土もある。それの相異をよく見極め、痩せているところには肥料を多く施し、手をつくし、平均に育てあげるということ、それが政治というものだと。

そうした目で見ると私のムラには全く政治が行き届いていない。

そしてそれは日本という一国のことだけではなくて、世界全体がそのような「ゼニ」の力で動いているように見えてくる。

重ねていうが私たちの国である日本は米国という大樹の傘下に身をゆだねている。そしてその末はこの国の民族性を失うものになりかねない。米国による現代の「征伐」である。

かつて日本は朝鮮半島を「征伐」した。そしてそのことを「加藤清正虎退治」と子どもであった私たちにも教え込んだ。植民地の重要性を子どもにまで叩き込んだのである。

それの償いを今どんな形でなせばいいのか私にはよく分からない。けれどそのような忘れがたき過去を心から反省して、新たな隣国どおしのつきあいを興し、信頼関係を築くことができないものかと、頭の中がもじもじしてくる。

廃れつつある東北の寒村に居る者として、このことは他人事ではなくてわが身と同じであるからだ。

(農民作家)

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