〈本の紹介〉消されたマッコリ。/伊地知紀子著
2015年07月22日 14:28 歴史生きるための闘い、事件、悲劇
本書は、大阪を中心に日本で暮らす朝鮮人のマッコリづくりについて丹念に調べた掘り起こしの歴史書である。
著者は、「朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪」共同代表で大阪市立大学大学院文学研究科教員の伊地知紀子さん。
伊地知さんは、マッコリを作る技法が、植民地支配によって生活の場を移さざるを得なくなった朝鮮人とともに日本に入ってきたと考え、マッコリをキワードに在日朝鮮人の生活史と日本の朝鮮人に対する排除と差別、弾圧の歴史、そして草の根運動の中で培われてきた日本人と在日朝鮮人の連帯について書き記している。
本書の中核となる「『暁の襲撃』と多奈川事件」の章では、当時の状況が目撃者の証言によって生々しく蘇ってくる。
「われわれは戦争中に徴用で引っ張られ、終戦によって放り出され、食うていけないので生きるため酒を造っているのだ、この酒を取られることは、われわれの生命を奪うもので、われわれを殺すものである」
これは、1952年3月26日、大阪国税局泉佐野税務署、大阪地検岸和田支部、国家地方警察泉南地区署の3者合同による109人体制の密造酒摘発部隊による一斉摘発のときに、警察隊と住民が揉み合いになる中、住民の一人が叫んだ演説の内容である。当時現場には約200人の朝鮮住民が押しかけ、トラックの前に座り込み、大きな石がトラックの前に並べられ、トラックは動けず、中には女性や子どももいた。住民たちはトラックのタイヤから空気を抜き始め、警察隊と小競り合いになったという。