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〈朝鮮紀行《食》 11〉平壌4大料理の鯔汁

2015年05月01日 13:29 文化・歴史

ソジェ閣④

「大同江の鯔(ボラ)汁」は平壌4大料理の1つで、国賓や公賓等大切な客人をもてなすときによく出るという。 一昔前の日本では、汚染されていなかった東京湾の周辺で捕った鯔を刺身やこぶ締め、味噌汁などにしてよく食べていたらしい。高度成長期に入り工場や家庭用排水によって鯔は泥臭くなり、ここ最近敬遠されている。まさに海の汚染度をよく反映する魚である。今ではボラの卵巣を塩漬け、乾燥させた「からすみ」が親しみやすい食品となっている。

ボラ汁

ボラ汁

一方、ウリナラの鯔汁は脂がのっていて美味しいと聞いていたので、果たしてどのような味なのだろうかと期待を膨らませていた。調理実習に先立って使用する鯔を私とガイドが直接市場で購入することになった。 市場へ出向くとさまざまな食材が陳列されていて、見ているだけで楽しい気分になる。料理実習で使用するほとんどの食材はここで購入可能だが、肝心の鯔がなかなか見当たらない。いろいろな鮮魚販売員に聞いてみたが、ここにはないと断られる。今年は無理かな? と半分諦めかけていたところ、一人の鮮魚販売員が「奥の鮮魚売り場へ行って尋ねてみては? もしかしたらあるかもしれないよ」と情報を提供してくれた。

ソジェ閣の講師と共に

ソジェ閣の講師と共に

早速奥の鮮魚売り場へ行ってみるとその販売員、はじめは他の魚を進める。私とガイドは鯔がほしいというと「ない」と断られた。私たちは負けずに「むこうの販売員がここにあると言っていた」と強気で言うと、渋々奥の方にしまっていた3尾の鯔を持ってきた。 販売員に聞いてみたところこの鯔は、西海閘門のもので今日3尾しかない貴重な鯔だと希少価値をグンとあげて私たちと交渉を始めた。私たちはどうしても必要なので1尾でもいいから売ってくれと頼んだ。 「値が張るよ」とにやけながら言ったが1尾だと実習にならないので交渉に交渉を重ねやっとの思いで3尾をゲットした。鯔の大きさは約50~60㌢程で普通より大きいようだ。 鯔は鱗が固いため技術部長が事前に取り、さらに内臓の処理も施してくれた。学生たちはそのボラをきれいに洗い皆で力を合わせて2尾を3枚におろした。それを3~4センチほどぶつ切りにし水の中へ入れる。そこへねぎ、生姜、粒胡椒も入れ火にかけた。

料理の完成「美味しそうでしょ?」

料理の完成「美味しそうでしょ?」

暫くするとあくが出てくるので(臭みの原因となる)きれいに取り除き、鯔の旨味である黄色い脂が浮いてくる。最後に塩、胡椒で味を整える。お好みで出汁の素と臭みを消すための生姜汁を少々入れてもいいらしい。鯔の脂が基本となるとてもシンプルなスープだ。 さあ試食。鯔に関する良い「情報」と悪い「情報」両方知っている私にとって、この試食はとても大事なジャッジになる。結果はもちろん良い「情報」に軍配が上がった。決め手は臭みがないのはもちろん、鯔の出汁と脂の味が中心となり、塩と胡椒というシンプルな調味料が邪魔しない程度に旨味を引き立てていたことだ。 現代人の味覚は五感よりも、「情報」が美味しさを左右すると言われている。私も初めは情報に頼ってしまったが、今回は最終的に五感による「ジャッジ」ができたと思う。これからもこの感覚を是非研ぎ澄ませていきたい。

(金貞淑、朝鮮大学校短期学部生活科学科教員)

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