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〈取材ノート〉憧れの劇団

2014年01月29日 09:00 文化・歴史

中級部1年に進学したてのとき、友だちに誘われふと立ち寄った民族器楽部室は、朝鮮の木で作られた民族楽器と、松脂のにおいが充満していた。今でもそのにおいがたつと、あの頃の懐かしい記憶がフラッシュバックする。

正直、民族楽器に対する関心はほとんどなかったが、特段他に希望する部活もなかった記者の心を読み、半強制的に楽器を持たせた先輩たちの、「上手! センスがある」という戦略的なおだてにのせられたことが、入部するきっかけだった。いかにも不純な動機だが、やはり楽器の音を鳴らした瞬間の感動は今でも忘れられない。

朝鮮学校の民族器楽部に、金剛山歌劇団ファンがいない部はない。昔はカセットテープやビデオのテープが擦り切れるまで何度も何度もリピートして音源を聴いた。授業中は机の下にこっそり楽譜を忍ばせ、譜読みに熱中していた生徒たちも少なくない。公演会場に向かう胸の高鳴り、心なしか足取りも早くなる。

もちろん金剛山歌劇団の公演を指折り数え待つファンたちは日本各地に大勢いる。2014年初舞台となる福島公演(22日)では、開場の2時間以上前からすでに列をなす人々の姿があった。東日本大震災からまもなく3周年を迎える。震災直後、団員たちは福島にかけつけ、福島の同胞や日本市民らに明日への希望を届けた。その後も各地を巡回しながらエールを送り続けた。被災者たちもその思いをちゃんと受け取っている。「明日もしっかり生きよう」と。

芸術を通じて人々の心をつなぐ「憧れの歌劇団」にいっそう惚れ込んだ一夜だった。(梨)

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