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〈朝鮮民族の美 54〉鄭●(善に攵)「仁旺●(雨かんむりに斉)色図」

2013年05月10日 16:51 文化・歴史

「靄(もや)のはれゆく仁旺山」この画こそ、朝鮮独特の写実的画法である「真景山水画」を完成させた鄭●(善に攵)の代表作といえる作品であるし、わが国の近世絵画史を通じて傑作中の傑作といえる力作である。

1751年、紙本に水墨
79.2×138.2㌢ 湖厳美術館

これは鄭●(善に攵)が日頃ながめていて親しいソウルの西方に位置する仁旺山の岩山を描いたもの。時は初夏であろうか、にわかに雨が止んで、雨に洗われた仁旺山の岩肌がさまざまな襞(ひだ)を作って波うっている。所々時ならぬ滝も流れ出しているのが見える。その有様を大胆に、かつ、きわめて、伸びやかに自由なタッチで描ききっている。山の頂(いただき)から靄が晴れていくのであるが、まだ、中腹から麓にかけては雨の気配が残っており、中景の靄の中の靄の中に浮ぶ小峰、前景の松林に囲まれて鋭い屋根の線を見せて静まる家屋など、人びとに親しい対象を民族的な感情をこめて描いている。特殊な仁旺山を描きながら、その清新なスタイルは普遍的な名画としての貫禄を自然に具備している。

これは謙斉・鄭●(善に攵)が76歳の時の画であるというから驚かざるをえない。

彼はこれまで練磨してきた真景山水画の技法を、親しいこの題に一気に集中して、快心の名作を残したのである。

よく練られた構図と驚くべき描写力によって、日常親しんできた仁旺山が、あざやかに立ち現れてくる、さわやかな名作である。

(金哲央)

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