〈特集・「第九」平壌公演〉井上道義さんに聞く/風通し良くし、相互交流を
2013年03月13日 15:01 文化レベル高い演奏
今回、ベートーベンの「第九」は、朝鮮では初演だったが前回の公演と同様、とても気持ちよく演奏することができた。
今回、一番引っかかったのは、四楽章で出てくる歌詞がドイツ語だったこと。普段使わないドイツ語で歌うのは苦労したはず。しかし発音ができないとオーケストラの響きにも影響が出てくる。そういった意味で、初演にしてはどの国のそれと比べても比較的レベルの高いものに仕上がったと思う。
「第九」は、ヨーロッパ文化の一番の基となっているキリスト教とあまり直接的に結びついていない、非常に普遍的な思想で書かれた曲。この曲は、ベートーベンが創作した最後の交響曲だが、彼はそれ以前までは、自我の意識、強い独創性、誰にも負けない才能をもって理想主義を秘めながら音楽を作っていた。言葉で表現しきれない素晴らしさ、美しさなどを音楽で表現してきた。
しかし長い間、自分が追求してきたそのような音楽を捨て、平和へのメッセージを込めた新たな音楽で表現したのが「第九」だった。この曲においては、他のシンフォニーと違い、シラーの「歓喜の歌」が挿入されている。歌詞にある「An die Freude(アン ディ フロイデ=歓喜)を、自分の音楽というものの以前に、人々に対して平和のメッセージとして届けたかったんだと思う。