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玄正善さんの新刊「世界に流通する植物 花と観葉植物」刊行

2013年01月28日 14:58 文化・歴史

朝鮮語、日本語、英語で表記、約450ページの大著、各地の朝鮮学校に寄贈

東京・荒川商工会顧問、玄正善さん(85)の新刊「世界に流通する植物 花と観葉植物」(425ページ、非売品=オールカラー)がこのほど出版された。1月26日に開かれた2012年度東京朝鮮中高級学区教員たちの教育研究集会で全国の朝鮮学校に寄贈されると発表された。

非売品、問い合わせ=玄正善さん、03-3822-0253

玄さんはすでに「植物辞典」(2002年) 、「ウリ植物名の由来」(I、II、III巻・A4版=07年、09年)などの著書がある。今回の著書については、北南の学会はもとより、日本の植物研究者らからも大きな反響が届いている。神奈川県横須賀市に在住の植物分類学が専門で「日本シダの会」会員の大前悦宏さん(74)は、「長年、地道な研究を重ねて来られた玄先生に心から敬意を表したい。先生の立派なご著書を参考に論文を執筆したこともある。私一人が独占するのではなく、多くの人たちにも目を通してもらいたいと思い、地元の博物館にも寄贈させていただいてきた。今後も、植物を通じて、日本と朝鮮との友好と平和に貢献していきたいと願っている」と祝福の言葉を送った。

今回の著書もこれまでと同様、植物の学名が、朝鮮語(北の名称は下線入り表記)、英語、日本語名で表記された後、それぞれの特性と由来が豊富な資料を駆使してていねいに記されている。例えば、「ホウキギ」の花。北では(대싸리)、南では(꽃)と呼ばれ、原産地はアフリカ、ユーラシア。アカザ科。ホウキグサともいう。茎は直立して高さ約50cm~1m、下部から著しく分枝し、枝は開出する。これで草箒(くさぼうき)をつくるのでホウキギの名がある。花を観賞するというより花壇に植えて葉の色の変化を楽しむ。アスパラガスに似た葉が円錐型となり、春には黄緑、秋には赤褐色に変化して花壇をより多彩に楽しませる。秋につけた実は食べることができる。太陽の光を好むなどと記されている。

また、巻末には、学名、朝鮮語、日本語で探せるようにそれぞれ索引が添付されており、分かりやすい。

玄さんは今回の著書について「今、各国では園芸植物が大量に生産され、世界市場に出廻っている。朝鮮半島においても少なからずそれらが流通しているが、その名も形態もなじみがない。こうした花や観葉植物を720種を選んで名の由来と特性、また、育てるうえで留意すべき点などについても説明した」と述べた。

約10年の間に、500ページ近い大著5冊を次から次へと刊行した玄さん。しかし、決して順風満帆ではなかった。玄さん自身がこの間、前立腺がん、膀胱がん、胆石などを患い、36回に及ぶ放射線治療など過酷な闘病が続いた。治療の合間を縫っての調査、執筆。しかし、思いはただ一つ「異国で生きる子どもたちに、故郷の花や植物のことを知らせてやりたい」という一念だった。全著作は全国のすべてのウリハッキョに贈られた。

一番苦労したのは、分断が長い朝鮮半島において、南北で植物名が違ってきていることだった。北と南のあらゆる植物辞典、資料を集め、分析、整理するのはもちろん、直接、済州島やソウルの植物専門家に疑問点を正したりもした。植物名の由来を研究するために、南に出かけ、世宗大王の頃に編纂したといわれる最古の「李朝語辞典」を求めたこともあったという。費用はすべて自前。なぜ、ここまでできたのか。

病気を克服して、大著を出版した玄正善さん

穏やかな表情で語る玄さんだが、その半生は波乱に満ちている。1927年、済州島済州郡朝天面で生まれ、17歳で解放を迎えた。済州農業学校2年だった47年7月、ひそかに島を脱出し、大阪に逃れた。学友13人も日本へ逃れたが、現在も存命なのは、玄さんただ一人だという。翌年起きた4.3人民蜂起では、玄さんの家族、親せき、友人たちの多くも犠牲になった。

50年、大阪から東京・荒川区三河島に移った。「李升基博士にあこがれていた」玄さんは51年苦学して、日本大学に入り、応用化学を学んだ。その後、プラスチック業、金融業、遊技業などを経営。老境を迎える頃、昔、故郷で触れた植物のことがしきりに懐かしく思い出された。その記憶を次の世代に伝えていく責務がある、という思いにかられた。

「赤いケイトウの花が私にとっての故郷の原風景。私たちの世代にはその色や香り、風の流れまで、胸の奥に刻まれている。しかし、次の世代にはそれがない。彼らに植物への興味を持ってもらうためには、朝鮮語からも日本語からもアプローチできる辞典が必要だと思った」。執筆、校正、写真収集、出版、発送まですべて自力。そのぼう大な作業を東京・荒川商工会の梁明圓相談役らがが手伝ってくれたことに感謝する玄さん。

玄さんは「今度の本は集大成。もし、私に残された時間があれば、今、社会問題になっているシックハウスやアトピーに悩む人たちのために化学物質・ホルムアルデヒドなどの大気中の汚染物質を除去するのに作用のあるシクラメン、ミカン、インドゴムの木、アレカヤシなどの植物を紹介する本を出したい」と。すでに新たな目標が見えたようだ。

(朴日粉)

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