〈本の紹介〉領土問題と歴史認識 纐纈厚著
2013年01月16日 12:18 文化・歴史歴史と真摯に向き合ってこそ
昨年9月、石原慎太郎前東京都知事による尖閣諸島(中国名は魚釣島)購入計画、日本政府による尖閣諸島の国有化の問題で、日中間に緊張が走った。
一方、昨年8月には南朝鮮の李明博前大統領による突然の独島訪問によって、日本と南朝鮮の間にも亀裂が走り、緊張関係が急速に高まった。
日本、中国、朝鮮半島。東アジアにおける領土問題の背景にはいったい何があるのか。今も根深く存在する過去の歴史認識、侵略、戦争に対するそれぞれの対立、憎悪の感情が本書で解き明かされる。
著者は山口大学教授であり同大副学長。長年歴史学者として日本政治史、特には政軍関係の研究を重ねる傍ら、アジア各国を回り、現地調査、講義、講演などを行ってきた。諸国の研究者、学生、市民たちとの交流に触れる中で感じた、領土問題を巡る軋轢の背景を掘り下げている。
同氏は、領土問題の背景に潜む中国、南朝鮮の日本に対する嫌悪感には、日本による侵略の歴史を被害国は忘れていないということであると指摘している。台湾出兵、日清戦争、朝鮮に対する植民地支配の歴史をわい曲、正当化する日本。そのゆがんだ歴史認識に声を上げる諸国の市民たちの姿を「愛国主義」と批判、差別視する日本。本書では、各章でたびたび、「歴史に真摯に向き合い、教訓化する基本的な作業に日本の研究者が十分に意を用いなかった」ことへの著者の批判的見解が強調されている。
今一度、過去の歴史の真実を問い正すことで、同じ過ち、不幸が繰り返されてはならないという著者の切実な思いが節々から読み取れる。(梨)