四たび柳の京へ（上）／小久保晴行

百日でつくりあげたる記念像、夕日をあびてひかり輝く

5月15日から19日まで「日朝友好促進東京議員連絡会」第6次訪朝団の一員として新緑の平壌を訪れた。私にとっては2010年7月以来、2年ぶり4回目の訪朝である。田植えの忙しい時期であったが、受け入れ機関の朝鮮対外文化連絡協会（対文協）の皆様には親切で丁重な対応をしていただいた。

北京からの高麗航空では、祖国を訪問する大阪の在日朝鮮人の方々と一緒だったが、年配の女性は「歳をとり最後の祖国訪問になるかもしれない。しかし、帰りに関空（関西空港）の税関で、せっかくのお土産品を没収されるのではないかと、心配だ」と話していた。

対文協の洪善玉副委員長を表敬訪問（中央が洪善玉副委員長、右隣が筆者）

朝鮮の表玄関、平壌空港は大々的な改装中で、隣の仮設の建物で出入国の業務を行っていた。到着直後、夕暮れの「万寿台大記念碑」に詣でたが、昨年12月の、金正日総書記の急逝以来、わずか100日間で万寿台創作社の彫刻家などが中心になってブロンズの大記念碑を完成させたという。

もともと金日成主席の大銅像がそびえていた場所に、2体の大銅像を新たに創り上げたもので、昼夜兼行の突貫作業だったと聞いて驚いた。夕景の逆光を浴びると、ひときわ威風堂々と巨大に見えた。その夜、対文協の黄虎男局長による丁重な招宴をいただいた。

翌日午前、「高麗医学科学院」を訪れた。1961年に開設されたこの学院は、内科、外科のほか、ハリ、灸、東洋薬剤などの研究でアジアでもトップクラスの機関であり、500床のベッドを持つ大病院である。

続いてしばらくぶりに「朝鮮中央歴史博物館」を参観したが、とくに旧石器時代以降の朝鮮半島の歴史を克明に検証し、貴重な資料が多数展示されていて興味深いが照明が暗くて目を凝らしてもよく見えなかった。広大な博物館の中を歩いていると少し疲れたが、昼食の楽しみは何といっても冷麺である。

有名な玉流館が改装中のために高麗ホテルで名物の冷麺を食した。「冷麺こそ朝鮮の誇り」といわれている。そば粉100%の「平壌冷麺」は、コシが強くて、銅の器に固く盛り付けた麺にチャーシュー、鶏肉、キムチ、ゆで卵を添えて酢を入れて頂くと、「平壌にやって来た」と実感した。

金星学院でのコンピューター教育（写真はすべて筆者提供）

朝鮮の体制維持の基礎となる英才教育現場は華やか

午後は「金星学院」へ案内された。芸術の専門エリート教育機関で、中学校終了までの17歳未満の少年少女が集まっている。民族舞踊や洋楽器演奏、バレエの芸術部門ほか、近年力を入れているのがコンピューターである。

ソ連・東欧の崩壊以降も朝鮮社会が堅固に続いているのは、徹底した「教育制度」にあると私は理解している。その中心は初等教育からのチュチェ思想の徹底。外敵に対する緊張状況。そして儒教思想の温存などがある。

次に「ハナ音楽情報センター」を訪れた。総書記が亡くなる僅か2日前に、金正恩第1委員長と一緒に来られたが、国内外の音楽の情報、資料を整えた視聴覚室があり、2012年2月15日に一般公開し、すでに3万5千曲の収蔵があるという。総書記は、このあと、光復通りの「光復地区商業センター」に行かれたが、これが生前最後の現地指導先となった。

翌日は2008年から工事を始めた1,000ヘクタールに及ぶ「大同江果樹総合農場」を訪問した。併設されている「大同江スッポン工場」はオートメーション化され管理されていた。

夕食後には「凱旋青年公園」に行った。ライトアップされていて10カ所のアトラクションがあって、大勢の市民が楽しそうに嬌声を上げていた。夜12時まで開館しているそうだ。平壌市内にはさらに数カ所の遊園地を建設予定だということであった。なお寒さの厳しい冬の時期は休館だという。

われわれが表敬訪問した、対文協の洪善玉副委員長はこう述べていた。

「朝・日関係は最悪な状況だ。平壌宣言発表以降10年だが、10年経てば山河も変わると言う。われわれは昨年、胸が潰れるような思いをした。人民をもって天となす、と言われた総書記の逝去後、人民は立ち直るのが大変だった。総書記は生前自らの銅像を創ることを固く禁じていたが、4月13日に記念碑の銅像の除幕式を行った。金正恩第1書記がとくに一番悲しい思いをしているが、全人民の念願で最高指導者に推戴した。お陰で金日成主席生誕100周年記念式典を無事に終えることができた。人民は総書記が生きているのと同じ気持ちで皆仕事に励んでおり、団結して強盛大国建設のために努力している。今後は大いに経済建設に力をそそぎ、人民が何不自由なく暮らせるように頑張る。皆様方のように、このような困難な状況のなかでも、わが国へお出でくださったことに感謝する」

（評論家・歌人・江戸川区代表監査委員）