〈朝鮮と日本の詩人 94〉長谷川龍生
2009年06月08日 00:00 文化・歴史安重根義士を称えて
だれか知らない人間が
立ったまま仮眠のまどろみの中に
一つの駅を発見する。
それは植民地の駅。侵略計画の駅。明治四二年十月二十六日朝はやく
はるか灰色の地平線の見えるハルピンの駅頭だ。
シューバーを着こんだ伊藤博文の前に
ひとりの男が突然現れて
プローニング黒色七連発が火を噴いたのだ。
そのとき、一瞬、
プラットホームの時間が停止した。
伊藤博文がぐしゃりと崩れかかっている。
川上領事が右腕を空間に泳がせている。
森槐南が肩をおさえ、よだれをたらし、顔をひんまげている。
中村満鉄総裁がひっくり返っている。
貴族院議員室田義文が白眼を剥きだし、口から泡をふいている。
ロシヤの出迎武官たちが、ぽかんとして直立不動で眺めている。
伊藤博文の血痕が、空間に止まったまま
変色し、凝固しようとしている。