〈人物で見る朝鮮科学史 72〉実学の時代(3)
2008年12月05日 00:00 歴史洪大容の「宇宙論」
朝鮮史でもっとも優れた科学者はいったい誰だろうか? 筆者は「籠水閣」という私設天文台を作り、実用応用問題を中心とした数学書「籌解需用」を著し、そして「気」の哲学によって宇宙と様々な自然現象の解明を試みた18世紀の実学者湛軒・洪大容を挙げる。宇宙論こそ自然科学におけるもっとも壮大なドラマと思うからである。
洪大容が宇宙論を展開したのは実翁・虚子という二人の人物による対話形式の「毉山問答」という著作である。儒学者として型どおりの学問を修めた虚子に対し、実翁が「権力に惑わされれば国を危機に落とし、学術に惑わされれば世を汚し、女食に惑わされれば家を滅ぼす」と戒め、改めて「大道の要」は何かという虚子の質問に答える。この大道とは宇宙全体と人間の進むべき道と解釈できるが、そこで実翁はその本源は宇宙にあるとして、その生成と構造について語るのである。