〈朝鮮と日本の詩人 66〉階戸義雄
2008年09月08日 00:00 文化・歴史不屈の革命精神うたう
京城監獄に石棺そっくりの地下暗房があるという
一人の政治犯が終身禁固になっているという
盲聾唖の三重苦だという
だが生まれながらの廃人ではないという
かつては独立運動の首領
被圧迫民族のヒーロー
半島の猛虎として総督府の戦慄であったという
民衆の間から風のように出現し
全朝鮮に動乱の渦を巻き起こした
情熱のアジテーターであったという
或るときは金剛山の頂上に白衣をなびかせて立ち
或るときは釜山の埠頭に乞食姿でうづくまり
或るときは鴨緑江の筏の上に棹さす水夫であったという
総督府に捕らえられ
ひらめく眼は刺され
さとい鼓膜は破られ
ひびき高いのどはつぶされ
窓のない独房に残骸を横たえるのだという
彼の名が金か李か趙か知らない
だがアリランを口ずさむ朝鮮人なら
誰でも一度は彼の顔を見たことがあるという
誰でも一度は彼の声を聞いたことがあるという
彼が実在の人物か伝説の人物か知らない
だが半島の兄弟たちは断じていう
「彼の人は今尚生きている!」
京城監獄の高い煉瓦壁の中にか
彼ら自身の部厚い胸の中にか