〈朝鮮と日本の詩人 25〉茨木のり子
2007年02月28日 00:00 文化・歴史韓国の老人は
いまだに
便所へ行くとき
やおら腰をあげて
〈総督府へ行ってくる〉
と言うひとがいるそうな
朝鮮総督府からの呼び出し状がくれば
行かずにすまされなかった時代
やむにやまれぬ事情
それは排泄につなげた諧謔と辛辣
ソウルでバスに乗ったとき
田舎から上京したらしいお爺さんが座っていた
韓服を着て
黒い帽子をかぶり
少年がそのまま爺になったような
純そのものの人相だった
日本人数人が立ったまま日本語を少し喋ったとき
老人の顔に畏怖と嫌悪の情
さっと走るのを視た
千万言を費されるより強烈に日本がしてきたことを
そこに視た