〈朝鮮と日本の詩人 15〉蔵原伸二郎
2006年08月04日 00:00 文化・歴史冬の山道なり。
残照明るきところ、
三人の朝鮮人立ちいたり。
彼らの頭上に白い雲が輝き、
背高き一人はアメリカ煙草を吹かし、
一人は苦き顔して論議し、
肥えたる他の一人は黙然たり。
この寂寥なる風物の中、
いま彼らの故郷は希望に明るみ
自由なる鶴の一群―
蒼き夢のなかを飛びゆくか。
異郷のきびしき山道にたちて、
かれらの血は何を求めて叫ぶぞ!
ふと見上ぐれば昼の月出で、
白き鶏はかれらの足許を歩み去れり。
突兀たる石灰山が、
蒼天めがけて抜き立っているところ、
はるかなる岩かげに、
ゆがめる彼等の家は並び、
青衣の少女一人立ちていたり。
わが愛する朝鮮の人々よ、友よ、
ともに和敬と静寂とをたずねて
蕭条たる疎林の中に消えてゆく、
あの一本の山道を歩いてゆこう