〈人物で見る朝鮮科学史 11〉広開土王とその時代(番外編)
2006年05月22日 00:00 歴史筆者が教壇に立つ朝鮮大学校は今年で創立50周年を迎えた。それを記念して朝鮮から付属歴史博物館に多数の歴史遺物が贈られてきたが、最も貴重な一品は古朝鮮独自の青銅文化を実証する琵琶型短剣で、関係者によれば日本で一般に展示されているのはここだけということである。むろん、その他の展示物にも興味をそそられるが、とくに目を引くのは高句麗壁画の原寸大の精巧な模写である。筆者もしばしば内外の研究者を案内するが、なかでも江西大墓、中墓に描かれた青龍、朱雀、玄武、白虎の四神図の前では誰もが立ち止まる。
それは、その芸術性の高さに圧倒されてのことであるが、科学史的にはそこに用いられている顔料、すなわち絵の具の威力に注目する。それらは鉱物性の顔料で、例えば緑青は孔雀石を砕き、赤色は酸化鉄の弁柄(べんがら)、硫化水銀の辰砂を用いた。その鉱物精錬技術の高さは、6世紀中国の有名な博物学書「本草經集註」に、高句麗の金は精錬され(純度が高く)服用することができるという記述からも十分に知ることができる。